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103 秘密基地

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「お弁当?」
「うん。だって明日には王都に行くでしょう? 今日はドンク達と一日中遊ぶって決めたんだもん」

 そう、オレ達は明日、王都に行くことになっている。片道馬車で1週間。(きっと飛ばすからもっと早く着くけど)往復で2週間。向こうで何日か滞在すると1ヶ月近くここを離れることになる。

 ドンクは夏からサースポートの学校に行くけど、寮の準備とかで早めに出立するとオレと行き違いになるかもしれない。だから記念に秘密基地で一日過ごすことにしたんだよ。

「うーん、弁当はいいが、秘密基地ってどこだ? ちゃんとサンも連れて行けよ」
 難しい顔でディック様が言ったけど、サンは大人だから駄目だ。キッパリ断ると執事さんがとっても嫌な顔をした。でも大丈夫。ちゃんと対策を考えているよ。

「クライス兄さんは荷物の整理で絶対夜までかかるでしょう? ディック様は書類の仕事があるし。サーシャ様は村の人たちと留守の間の工房の打ち合わせ。ニコルは悪いことの準備でしょう?」

「ちょっとちょっと、コウタ誤解してない? アタシ、悪いことなんかしないよ」
 慌てて否定したけど、オレ、ちゃんと知ってるもん。ニコルは斥候っていう仕事があるから、罠を見破ったり、スパイみたいに敵の情報を集めたりするんだ。だからポケットに盗聴したり、罠を作ったり解除したりする道具をたくさん準備して冒険に出るんだよ。明日、一緒に出発するんだもん。今日は仕込みに忙しいはず。

「えっと、キールさんも魔道具の準備や調整があるでしょう? だから、子供で1番暇なのはアイファ兄さん。ちゃんとアイファ兄さんを連れて行くからいいでしょう? 」

「はぁ? 何で俺が子供枠? 暇って何だよ、暇って」

「だってアイファ兄さんはブシュッと魔物を切るだけでしょう?真っ直ぐバカってそういうことだってクラ……フガフガ」
 クライス兄さんに口を塞がれたオレだけど、アイファ兄さんは面倒見がいいからね。きっと一緒にきてくれる。

「村から出んなよ」
「水辺は駄目だぞ」
「あー馬車乗り場も辞めとけよ」
 
 しつこいくらいに注意を受け、アイファ兄さんを連れ立って出発だ。
 大喰らいのアイファ兄さんのための特大のお弁当をジロウにくくりつけ、待ち合わせの水車小屋に行く。ほら、ドンクもミュウもリリアだって木剣や籠を持って待っている。すっかり遅くなっちゃったね!


「お弁当よーし」
「武器よーし」
「ジロウとプルちゃんよーし」
「大人だけど子供よーし」
 みんなで指差し確認をして、秘密基地に出発だ。

「アニキ、もっとしっかり持ち上げて」
「何で俺がガキどもを抱っこせにゃならんのだ? あぁ? ふざけやがって」

 抵抗するアイファ兄さんだけど、秘密基地に行くにはこうするしかないんだもん。プルちゃんに負担がかからないようになるべく小さくまとまるんだ。
「じゃぁ行くよ!」
「「「「5、4、3、2、1  プルちゃーん」」」

 ビヨーーンと身体を大きく伸ばしたプルちゃんに包まれて転移する。


 秘密基地。ここは白龍のお爺さんの洞窟だ。水辺だけど、湖や川とは違うし、よくわかんないけど村の中。でも絶対誰にも見つからない。すごい基地、いいでしょう?

「うをっ? これが転移か? お前、やるなっつって言われてるだろう?」
 ちょっとばかりのお説教があったけど、これ、オレの魔法じゃないもん。プルちゃんだもん。セーフでしょ?


「おう、良き良き。 今日は猛犬も一緒か? ふぁっふぁっふぁっ。 子はいいのう」
 長いお髭をワシワシ撫でて白龍のお爺さんがやってきた。オレ達はわぁと喜んで走っていく。

「チッ、誰が猛犬だって? おい、爺ィ、チビを手懐けてどうしようって?」
 喧嘩越しに突っかかっていく兄さんを慌てて止めた。

 龍爺の座卓にお弁当を出してアイファ兄さんを座らせればオレ達の準備は完了だ。何だかんだと言いながら龍爺はお酒を出して兄さんと呑み交わすだろう。そうすればオレ達の邪魔をするものはいない。子供たちでヒヒと悪い顔をしあって、きゃあきゃあと洞窟を走り回った。薄暗い洞窟が興奮を誘うよ。


「ここらでいいだろう?」
 大きな岩陰でチラと見た兄さんに背を向ける。うん、いいと思う。見えないところに行くと絶対心配するから。背中越しならわからないだろう。
「じゃあいくよ。手を出して!」

 魔力があると言われたドンクとミュウの手を取って、そっと魔力を送る。リリアは目を輝かせてジロウの毛を撫でている。じわりじわり。熱くなっていくドンクたちの体温を感じて目を開ければ、ふわり金の風が前髪を揺らした。そっと手を離しても身体が光っているみたい。

「す、すげぇ。 これが魔力?」
「体がポカポカするわ。力が湧いてくるみたい」
 興奮気に手のひらを見つめ、足を踏み鳴らす二人にクスクスと声が響く。そう、ミュウは学校に行かないからね、魔法を習う機会がない。ドンクだって使えるって言われた魔法を学校まで待ってられない。だから今日、みんなで練習するんだ。危なくない魔法ならきっと大丈夫。それに今日は魔法を使うなって言われてないし。

 しゅんと力が解けたところで各々の魔力操作の練習だ。身体の中の魔力を感じて一箇所に集める練習。オレも得意じゃないけど随分できるようになったよ。ちなみにドンク達にはまだライトの魔法しか見せていない。色々できるだろうって感じてるみたいだけど、知らないふりをしてくれている。

「コウタ、ちょっとだけ見せて」
 退屈しているリリアにせがまれて、魔法を見せる。小さなライト。はじめは丸く。炎のように揺らめかせればプルちゃんみたい。ソラの形やジロウの形、魔力操作さえできればこんな形だって楽しめる。

「おっ、いけるような気がする! コウタ、詠唱、教えてくれよ」
 早くも魔力が分かったのかドンクが催促してハッとする。しまった! オレ、詠唱しない! そういえば発動するにも普通の人は杖がいるんだっけ?
 
 慌てて龍爺に助けを求める。

「龍爺! 魔法の杖はない?」
「ふぉっ? 何じゃ、変なもん欲しがるのう」

 オレの身長よりずっと大きい立派な杖が出てきた。うーん、片手でチャチャっと振れるお手軽な大きさがいいんだけど……。
「そうだ! アイファ兄さん、ライトの詠唱教えて?」

「はぁ? お前何言ってる? 俺ができるわけねぇだろう? ちょっと待て! まさか?! お前たち、勝手に魔法の練習をしてんじゃねぇだろうな?」

 ドキッ! しまった! 兄さんに隠してたこと忘れてた! 焦りつつもここは龍爺の前、目の前には美味しいだろうお酒があってつまみのお弁当もある。ニッコリ笑ってお酒を注ぐ。
「はいはい、美味しいお酒だよ~! 龍爺のお酒は献上品だから極上ってディック様も言ってたよ~。はい、龍爺も。今日はたっぷり呑んでいいから~」

 アイファ兄さんの口元にグラスを持っていき、溢れそうにすればおっとっと、なんて言ってズズッとお酒を啜る。ついでに骨付き肉を突っ込めば、ほら、うっとり。食欲には勝てないよね?

 でも困った。ちびっ子組がこっそり魔法を練習するには今日しかない。特にミュウはどうしても早く習得したいんだし……。オレは決断した。こんな時こそ大人を頼ろう! 魔法にそこそこ詳しくて、秘密が守れて、オレのことを捕まえない人。


 ふわり。

 閑散としたギルドの中。昼間は比較的空いていて探しやすい。ここなら人目もあるから、簡単に誘拐もされないはず。カウンターの裏に転移したオレはキョロキョロと辺りを見回してお目当ての人を探す。居たっ! 

「こんにちは! ズコックさん!」
 今日は穏やか笑顔で挨拶したのに、おおっと部屋の隅まで飛び退いたのは何故だろう。まあいいや。時間もないから、早速本題にうつる。

「ねぇ、魔法使いの杖ってどんなの?オレが使えそうなのでいらないのある?」
「なぁ? 何言ってやがる。 そうだ、ディックはどうした?」

 胡散臭気な目で相手にしてくれない。仕方がないからオレは指を一本立てシーと言ってみる。

「ひ、み、つ。 ズコックさん、分かってるでしょう?」
 瞳と唇を思い切り引き攣らせた男は、慌てて奥の部屋に連れ込み、ガタンバタンと机や椅子で扉を塞いだ。

「おっ、恐ろしいガキだ。この俺様を脅そうってのか?」
「違うよ! 信頼できる大人に聞きにきたの! オレ、頼りにきたの!お願い!」
 
 信頼という言葉にポッと頬を染め、仕方がないなと引き出しから一本、木の枝みたいな杖を取り出した。

「ほれ、やるぞ。冒険初心者用の杖だ。危ういやつに渡す予備用だが、一応制御しやすいトレント素材だ。」
「わぁ、ありがとう! 今度、龍爺に美味しいお酒をもらってくるね」
 サッと転移して帰ろうとしたら首根っこを掴まれて捕獲されてしまった。

「おい、待て! お前、また俺に秘密を押し付けようとしてないか?」
「……、してないよ。だってズコックさん、オレが魔法使えるって知ってるでしょう」
 すんと首を傾げると凶暴な顔を寄せてきた。

「俺が知ってんのは水魔法と魔力が多いってことだが……? しかもお前、杖なんか使わねぇよな?」
「うん、そうだよ! あ、そうだ! 詠唱、詠唱も教えて! ライトでいいから」

 そうだ! ついでに詠唱も教えて貰えば手間がない。エンデアベルト家では絶対に教えて貰えないし……。
 オレはギルドマスターの机にあった書類の束から、明らかに書き損じていそうな書類を探し出し、ペンを持って詠唱を待った。

 なんでガキが書類の選別をするんだと蹲ったズコックさんを急かし、混乱している隙に詠唱を聞き取る。えへへ、さすがだ。詠唱が終わると薄暗い部屋がぱああと明るくなる。お礼にちょっとだけ。元気になあれと金の粉を振り撒いた。
 さあ、秘密基地に戻って、魔法の特訓再開だ!
 


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