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068 アイカ、キロイ、アオロ

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 アイカ、キロイ、アオロの三人は生まれたての妖精だ。と言っても20歳は超えているそう。妖精の寿命は300年くらいで、世界を見る者、生きる者として人々の暮らしが世界の理から外れないかを見守る役目があるらしい。

 雪始めの祭りの時、オレからキラキラの魔力が溢れていたのを見て、面白がって領主館に来て以来、時々モルケル村を探検して遊んでいたんだって。雪始めの祭りの時は村の人の祈りとオレの魔力で妖精達の力が増し、人々の目に触れることになったんだ。

 あの時オレ達は精霊様が来たと思ったんだけど、精霊様は妖精を生み出す神様みたいなもので、滅多に姿を見せない。妖精達は精霊様にお仕えして、精霊様に人の世界の様子を伝えたり、精霊様の代わりに力を与えたりするんだ。だからオレ達にとって身近な存在が妖精なんだ。
 でも精霊様も妖精も見える人が減ってしまってからは、言葉や意味合いがごちゃごちゃになってしまっているんだって。

「ここは世界樹の根っこ。妖精の国の入り口」
「黒い穢れが襲って来たの。天井が崩れたのはそのせい」
「もう駄目だと思った。帰れないと思ったの」

 領主館とこことを繋いだ転移の魔法陣。それがあったおかげで人に助けを求めに来たんだって。けれど、誰も妖精の姿に気がついてくれず、困っていたそうだ。気がついてって思い切り魔力を解放した姿にオレが気付いたってことらしい。
 でも人の魔力と妖精の魔力は違うから、オレがここに来るために、魔法陣を新たに描く必要があった。魔法が発動するようにオレをいざなった結果、追いかけっこみたいになったんだって。よかったよ。無事にここに辿り着けて。アオロを助けることができて。

 オレ達は薄暗い穴のような世界樹の根っこのもとで暫く休んだ。傷ついたアオロが少し元気を取り戻したら、ふうと風魔法で粉々になった砂粒を吹き飛ばして、妖精の国に繋がる魔法陣を起動させる。もう大丈夫。妖精の国に帰れるね。

「ありがとう。ヒトの子」
「光の子、ありがとう」
「帰れるようになってよかったね。また会える?」
「「「もちろん!」」」

「ヒトの子、恩人」
「また遊ぼう、ヒトの子」
「友達。光の子」
「ありがとう。友達って言ってくれて嬉しい。でも、オレ、コウタって言うの。ヒトの子だけど、光の子って?」

「溢れてる、キラキラ」
「あたし達に、光って見えるの」
「温かい光、優しい光」
「「「心地いいの。」」」

「そうなんだ! オレ、自分じゃわからないけど、何だか嬉しいな!よろしくね」
「「「きゃぁ~!よろしく~」」」

 三人のニッコリ笑顔を見て、オレ達はぎゅっと抱き合った。すごい! 妖精さんと友達になったよ。

「ヒトの子、待ってて! 精霊様の許可、もらってくる」
「コウタ、妖精の国に来る。恩人、おもてなし」
「お礼する。仲間、紹介する」

「えぇ! 嬉しいけど、駄目だよ。オレ、こんなに大きいもの。妖精さん達、潰れちゃうよ。それに……」

 妖精の国ってどんな所だろう。ワクワクする気持ちとは裏腹にオレはクタクタに疲れていて、しかも土と水滴で酷く汚れている。こんな状態で行くなんて流石に気が引ける。しかも、とってもお腹が空いているんだ。
 躊躇するオレの手をアオロがそっと握った。

「一緒に来て……?オイラ、まだ力が出ない」

「いいの……?」
「うん。来て欲しい。だから、一緒、待とう。」

 アイカとキロイがピンクの光の渦に吸い込まれるの見送り、オレは暗い木の根に身体を預けて蹲った。アオロはオレの手の平の中でくつろいでいる。

 ぴちゃん。
 静まり返ったここは、ほんのりと光を纏った魔法陣があるだけで薄暗く、だだっ広い。

 ぴちゃん。
 何処からか溢れ落ちる雫の音が響き、また静けさを取り戻す。オレは静寂に取り込まれてしまったように不安になってアオロと頬を合わせる。
ーーーーあっ。

 よく見ると、さっきの衝撃でアオロは傷ついていた。頬に、腕に血が滲み、服は煤けてボロボロだ。

「ごめん。オレがもっと上手に魔法が使えていたら……」
 アオロの小さく柔らかな頬を指でそっと撫でる。
「何を言うの? あのまま、オイラ、弱る。空、消えちゃってた。それが、このくらい、傷、済んだ。それに、アイカもキロイも国、帰れなくなった。全部、コウタのおかげだ」

 そう力強く言ってもらったけど、アオロの顔が痛々しい。妖精に回復魔法って効くのかな? 小さいからやりすぎちゃう? ううん。お願いならどうだろう。魔法でなく、キラキラの光を使ったお願いなら……。

「ねぇ、アオロ。もし嫌だったら逃げられる?」
「ん……? 何のこと? オイラ、こう見えて、すばしっこいよ。さっき、キロイ、庇った。下敷きになった。だけど、本当、あんな岩っころ、捕まる、オイラじゃ、ない」
「そうなんだ。じゃぁ、よかった! 行くよ」

 オレはアオロの返事を待たずに願った。お願い、ちょっとだけ。アオロの痛みがなくなりますように。

ーーーー金の光が辺りを明るく照らす。小さな風が舞い、漆黒と水色の髪がふわりと持ち上がり渦を巻く。

「し、信じられない。ヒトの子、どうして? 妖精に魔法、使えるの? しかも回復魔法が……」
 小さな手の平を見つめるアオロが驚いて呟いた。
「どうしてって? どうしてだろう。お願いだから? 魔法じゃないから?」


「ば、馬鹿! 正真正銘、女神の祝福だ! 回復魔法、特別! ヒトでも妖精でも、厳しい訓練、素質、そして、女神の祝福、いる! 普通、出来ない。 それに、お前、子ども! しかもお前、普通の魔法、使う、だろ? どうなってる?」

 どうしてと言われても、オレに分かるはずがなく、興奮するアオロを尻目にことんと首を傾げる。女神、女神……。
 そういえば、ナンブルタル領で会った悪魔も言っていたっけ。女神? 父様や母様達が何か関係していたような。だけど女神について考えると思考がぼやけてくる。


「お待たせー」
「ヒトの子、精霊様が呼んでいいって」
「アオロ、大丈夫? 帰れるー?」
 赤と黄の光がふわりふわりと戻って来た。どうやら魔法陣は転移先では輝かないらしい。

「あぁ、うん。行けるよ。さぁ、行こう」
 
 伸ばされた小さな手に任せて、オレは転移の魔法陣に乗った。妖精の国。どんな所だろう。眩しい光に目を閉じた瞬間、オレの身体がムズムズしてくすぐったい。思わずへらりと笑みを溢した。


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