76 / 260
068 アイカ、キロイ、アオロ
しおりを挟むアイカ、キロイ、アオロの三人は生まれたての妖精だ。と言っても20歳は超えているそう。妖精の寿命は300年くらいで、世界を見る者、生きる者として人々の暮らしが世界の理から外れないかを見守る役目があるらしい。
雪始めの祭りの時、オレからキラキラの魔力が溢れていたのを見て、面白がって領主館に来て以来、時々モルケル村を探検して遊んでいたんだって。雪始めの祭りの時は村の人の祈りとオレの魔力で妖精達の力が増し、人々の目に触れることになったんだ。
あの時オレ達は精霊様が来たと思ったんだけど、精霊様は妖精を生み出す神様みたいなもので、滅多に姿を見せない。妖精達は精霊様にお仕えして、精霊様に人の世界の様子を伝えたり、精霊様の代わりに力を与えたりするんだ。だからオレ達にとって身近な存在が妖精なんだ。
でも精霊様も妖精も見える人が減ってしまってからは、言葉や意味合いがごちゃごちゃになってしまっているんだって。
「ここは世界樹の根っこ。妖精の国の入り口」
「黒い穢れが襲って来たの。天井が崩れたのはそのせい」
「もう駄目だと思った。帰れないと思ったの」
領主館とこことを繋いだ転移の魔法陣。それがあったおかげで人に助けを求めに来たんだって。けれど、誰も妖精の姿に気がついてくれず、困っていたそうだ。気がついてって思い切り魔力を解放した姿にオレが気付いたってことらしい。
でも人の魔力と妖精の魔力は違うから、オレがここに来るために、魔法陣を新たに描く必要があった。魔法が発動するようにオレを誘った結果、追いかけっこみたいになったんだって。よかったよ。無事にここに辿り着けて。アオロを助けることができて。
オレ達は薄暗い穴のような世界樹の根っこのもとで暫く休んだ。傷ついたアオロが少し元気を取り戻したら、ふうと風魔法で粉々になった砂粒を吹き飛ばして、妖精の国に繋がる魔法陣を起動させる。もう大丈夫。妖精の国に帰れるね。
「ありがとう。ヒトの子」
「光の子、ありがとう」
「帰れるようになってよかったね。また会える?」
「「「もちろん!」」」
「ヒトの子、恩人」
「また遊ぼう、ヒトの子」
「友達。光の子」
「ありがとう。友達って言ってくれて嬉しい。でも、オレ、コウタって言うの。ヒトの子だけど、光の子って?」
「溢れてる、キラキラ」
「あたし達に、光って見えるの」
「温かい光、優しい光」
「「「心地いいの。」」」
「そうなんだ! オレ、自分じゃわからないけど、何だか嬉しいな!よろしくね」
「「「きゃぁ~!よろしく~」」」
三人のニッコリ笑顔を見て、オレ達はぎゅっと抱き合った。すごい! 妖精さんと友達になったよ。
「ヒトの子、待ってて! 精霊様の許可、もらってくる」
「コウタ、妖精の国に来る。恩人、おもてなし」
「お礼する。仲間、紹介する」
「えぇ! 嬉しいけど、駄目だよ。オレ、こんなに大きいもの。妖精さん達、潰れちゃうよ。それに……」
妖精の国ってどんな所だろう。ワクワクする気持ちとは裏腹にオレはクタクタに疲れていて、しかも土と水滴で酷く汚れている。こんな状態で行くなんて流石に気が引ける。しかも、とってもお腹が空いているんだ。
躊躇するオレの手をアオロがそっと握った。
「一緒に来て……?オイラ、まだ力が出ない」
「いいの……?」
「うん。来て欲しい。だから、一緒、待とう。」
アイカとキロイがピンクの光の渦に吸い込まれるの見送り、オレは暗い木の根に身体を預けて蹲った。アオロはオレの手の平の中でくつろいでいる。
ぴちゃん。
静まり返ったここは、ほんのりと光を纏った魔法陣があるだけで薄暗く、だだっ広い。
ぴちゃん。
何処からか溢れ落ちる雫の音が響き、また静けさを取り戻す。オレは静寂に取り込まれてしまったように不安になってアオロと頬を合わせる。
ーーーーあっ。
よく見ると、さっきの衝撃でアオロは傷ついていた。頬に、腕に血が滲み、服は煤けてボロボロだ。
「ごめん。オレがもっと上手に魔法が使えていたら……」
アオロの小さく柔らかな頬を指でそっと撫でる。
「何を言うの? あのまま、オイラ、弱る。空、消えちゃってた。それが、このくらい、傷、済んだ。それに、アイカもキロイも国、帰れなくなった。全部、コウタのおかげだ」
そう力強く言ってもらったけど、アオロの顔が痛々しい。妖精に回復魔法って効くのかな? 小さいからやりすぎちゃう? ううん。お願いならどうだろう。魔法でなく、キラキラの光を使ったお願いなら……。
「ねぇ、アオロ。もし嫌だったら逃げられる?」
「ん……? 何のこと? オイラ、こう見えて、すばしっこいよ。さっき、キロイ、庇った。下敷きになった。だけど、本当、あんな岩っころ、捕まる、オイラじゃ、ない」
「そうなんだ。じゃぁ、よかった! 行くよ」
オレはアオロの返事を待たずに願った。お願い、ちょっとだけ。アオロの痛みがなくなりますように。
ーーーー金の光が辺りを明るく照らす。小さな風が舞い、漆黒と水色の髪がふわりと持ち上がり渦を巻く。
「し、信じられない。ヒトの子、どうして? 妖精に魔法、使えるの? しかも回復魔法が……」
小さな手の平を見つめるアオロが驚いて呟いた。
「どうしてって? どうしてだろう。お願いだから? 魔法じゃないから?」
「ば、馬鹿! 正真正銘、女神の祝福だ! 回復魔法、特別! ヒトでも妖精でも、厳しい訓練、素質、そして、女神の祝福、いる! 普通、出来ない。 それに、お前、子ども! しかもお前、普通の魔法、使う、だろ? どうなってる?」
どうしてと言われても、オレに分かるはずがなく、興奮するアオロを尻目にことんと首を傾げる。女神、女神……。
そういえば、ナンブルタル領で会った悪魔も言っていたっけ。女神? 父様や母様達が何か関係していたような。だけど女神について考えると思考がぼやけてくる。
「お待たせー」
「ヒトの子、精霊様が呼んでいいって」
「アオロ、大丈夫? 帰れるー?」
赤と黄の光がふわりふわりと戻って来た。どうやら魔法陣は転移先では輝かないらしい。
「あぁ、うん。行けるよ。さぁ、行こう」
伸ばされた小さな手に任せて、オレは転移の魔法陣に乗った。妖精の国。どんな所だろう。眩しい光に目を閉じた瞬間、オレの身体がムズムズしてくすぐったい。思わずへらりと笑みを溢した。
4
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
ブレイブエイト〜異世界八犬伝伝説〜
蒼月丸
ファンタジー
異世界ハルヴァス。そこは平和なファンタジー世界だったが、新たな魔王であるタマズサが出現した事で大混乱に陥ってしまう。
魔王討伐に赴いた勇者一行も、タマズサによって壊滅してしまい、行方不明一名、死者二名、捕虜二名という結果に。このままだとハルヴァスが滅びるのも時間の問題だ。
それから数日後、地球にある後楽園ホールではプロレス大会が開かれていたが、ここにも魔王軍が攻め込んできて多くの客が殺されてしまう事態が起きた。
当然大会は中止。客の生き残りである東零夜は魔王軍に怒りを顕にし、憧れのレスラーである藍原倫子、彼女のパートナーの有原日和と共に、魔王軍がいるハルヴァスへと向かう事を決断したのだった。
八犬士達の意志を継ぐ選ばれし八人が、魔王タマズサとの戦いに挑む!
地球とハルヴァス、二つの世界を行き来するファンタジー作品、開幕!
Nolaノベル、PageMeku、ネオページ、なろうにも連載しています!
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~
ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」
ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。
理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。
追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。
そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。
一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。
宮廷魔術師団長は知らなかった。
クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。
そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。
「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。
これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。
ーーーーーー
ーーー
※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。
見つけた際はご報告いただけますと幸いです……
外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます
蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜
誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。
スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。
そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。
「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。
スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。
また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる