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009 甲斐性

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 俺は今、頭を抱えている。

 一つ目は、昨日の報告。サンと庭師からだ。コウタが魔法を使ったという。明らかに魔法なのだが、本人は否定している。ジュオンだ? ジュアンだ? そんな魔法、知らん! そもそも、魔法なんてこんなチビが使えるものなのか? 魔法使いである執事のセガは考えるのを放棄し、遠い目をしていた。

 二つ目はコレだ。昨日、コウタは庭で石を拾った。幼子によくあることだ。可愛らしい行為ではないか? 石ならば。石ならば……。
 何故その石が翌日にはピカピカに磨かれ、形を変えて目の前にある? この艶めき、光の反射、美しい曲線。これは石じゃねぇ。どう見ても石じゃねぇ。もはや宝石だ。
 もちろん、ダイヤやルビーなんかじゃねぇが、金貨1枚じゃ利かないぜ。

 はぁ~。

 そして三つ目。此奴は悪びれもせず、いや、むしろ嬉しそうな顔でベリーを持って来やがった。籠いっぱいに。そうだ、昨日此奴が作ったあの籠に一杯。ベリーは春に採れる果物だ。もうすぐ冬だぜ? 庭に実ってた? そんな馬鹿なことがあるもんか。

「あ~、もう一度聞くが、これはどういうことかな?」

「うん、だからお庭でオレを呼ぶ声がしたの! 行ってみたらベリーがなってたの! 本当は去年に実りたかったのに、力がなくて成らなかったやつなの。今年の分の力はちゃんと残してるって言ってたから採らせてもらったの!」

「ほう、誰が言ってたのかな~?」

「誰って、ベリーの木に決まってるよ」

「決まってねぇ! ベリーは木だぞ? 木が喋るのか?」

「木は喋らないよ! そんなこと知ってるもん。でも分かるんだもん」


「ディック様、さっきから同じことの繰り返しです。もういいではないですか。いくら話しても、我々には理解しかねます。コウタ様のお手柄でよろしいのでは?」
 執事が深い溜息をつき、助け船を出す。

 気に入らねぇ!

「それで?お前はをどうしたいって?」
俺は意地悪くコウタに聞く。
「だから~、山ではね、行商の叔父さんに買い取って貰ってたの。お金になるんだよ? ねぇ、オレ、ちゃんと働けるでしょ? 役に立つでしょう?」


「馬鹿野郎! 何で三歳児が働くんだよ? 役に立つ? たたねぇのが三歳児なんだ! 言ったろう? 三歳児は食って遊んで寝ろって! お前、頭良さそうなのに、こんな簡単なことがわかんねぇのか?」

「何で怒ってるのか分かんないよ~。だって、だって……。」
 とうとうコウタはベソをかき出した。

 悪気はないのは分かってるさ。だが、何で役に立とうとする? 金に困ってように見えたか? 俺はそんなに甲斐性なしか?

 メリルがコウタを抱き上げて慰めた。
「大丈夫ですよ。コウタ様はご立派でらっしゃいます。素晴らしい才能ですわ。どこかのお偉いさんは頭が固いですわね。メリルはコウタ様の味方です。したいようになさってくださいね~」

 扉からこっそり覗くメイド達がうんうん頷いている。ちっくしょう! オメェ達は気楽でいいぜ。ちっとは護る側の身になれ!

 机に突っ伏し、セガを見上げるとあいつも苦笑いだ。メリルはメリルでベソをかくコウタの機嫌をとる。

「さぁ、コウタ様。そのベリーはオヤツになさいます? それとも蜜漬けになさいます? 季節外れですからね、ベリーはお売りになれませんよ」

「オレ、蜜漬けがいい! ミルクに入れるの! 大好きなの~」

「もういい……。行け行け。厨房に行って頼んでこい……」
 ぐったりとしてメリルとコウタを追い出すと、セガが落ち着けとばかりに熱い紅茶を差し出した。


「さて……。いかがいたしますか?」
壮年の執事が小声で呟く。

「知らねぇよ。街に行った時にでも売るか? あいつの小遣いにはなるだろう?」
「小遣いどころか……。一月二月食べていくにも十分かと……」

「はぁ~。……だよなぁ。……俺んとこに来て正解だぜ。金になると分かれば、それなりには育てて貰えるさ。だが、あいつは三歳だろう? いいように使われちまうのがオチだ。悪いやつの手に渡らなくてよかったよ」
 もはや俺の思考も停止寸前だ。訳ありなのは百も承知。それにもしても、こうも次から次へと……。

 セガは宝石を手に取って光にかざすと、ふうっと息を吐く。そして胸ポケットの白いチーフでそれらを包んだ。

「薬草の知識もお有りの様です。石の加工に薬草採取。三歳の子供が生きていこうとするには十分すぎるでしょう。役に立つと分かったお子を捨てる馬鹿はいません。危険も承知の上で……。コウタ様のご両親はどれほどのお覚悟でお教えなさったのでしょうか。胸が痛みます」

「あぁ、…………」

俺たちの溜息は当分続きそうだ。


 



 
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