上 下
13 / 38

第13話

しおりを挟む

翌日から毎日、

「陛下からお花ですよ」
とマリアが持って来た大きな花束に、

「もう、飾る所がないんだけど…」
と私は困ってしまう。

陛下はあれから全く顔を見せなくなったが、こうして毎日花を贈ってくれるようになった。

「廊下にでも飾りますか…あ、はい、これ。いつものメッセージカード付です」
とマリアは私に陛下からのメッセージカードを手渡してくれた。

『クロエ、すまなかった。ゆっくり休んで欲しい』

『クロエ、この前は悪かった。クロエの顔を見れずに寂しい』

『クロエが居ない事がこれ程辛いとは思わなかった。許してくれるなら、顔を出しても良いだろうか?』

あれから毎日、こうして花束に添えられたメッセージ。

短い言葉の中に、陛下の反省の気持ちと…私に対する気持ちが記されていた。

私がそれに目を通していると、マリアが私の顔の前にさっと手鏡を差し出した。

そこには少し口角が上がって、目を丸くする私が写っている。

「何なの?マリア」
私が驚いて訊ねると、

「メッセージカードを読んでいるクロエ様のお顔を見せたかったのです…いつも微笑んでいらっしゃるから」
とマリアが笑う。

「え?私、笑ってた?」
と訊ねる私に、

「まぁ…言葉は悪いですけど、ニヤニヤしていらっしゃいました」
とマリアは歯に衣着せぬ物言いで言った。

「ニヤニヤって…。私、そんなに締まりのない顔をしていたかしら?」

「ええ!それはもう!」
と嬉しそうに言うマリアに、私は、つい可笑しくなってしまった。

「そんな堂々と胸を張って言わないでよ。…そう…私、笑ってるのね」
と私が改めて言うと、

「ええ。…とても嬉しそうですよ?そろそろ陛下を許して差し上げては?」
と言われてしまった。

もちろん、私はもう怒ってなどいないし、なんなら、私の方こそ謝りたいぐらいなのだが…切っ掛けって難しい。

私は、

「ねぇ、ジュリエッタはどうしてる?」
とマリアに訊ねる。

「相変わらずサボってますけど…ナラさんが厳しく指導はしてますよ。
身に付いていないだけで」
と、サラッと答えた。

マリアのあっさりした所が私は好きだ。

「そう…ナラにも申し訳ないわね。もちろん、マリアにもサマンサにも…」

「クロエ様が気にする必要はないですよ!
ジュリエッタ様に全責任があるんですから。…最近は、陛下からも取り合って貰えてないんで、かなりご機嫌ナナメですけどね」
とこれまたサラッとマリアは答えた。

…陛下…ジュリエッタに構っていないのね…。

私がそう思っていると、

「クロエ様、またニヤニヤしていらっしゃいますよ?」
とマリアは笑った。

…間違いなく、今の私は嬉しかったのだ。陛下がジュリエッタと共に居ない事を聞いて。

私は、

「マリア、私にもカードとペンを」
と頼むと、マリアは直ぐに持って来てくれて、

「はい、どうぞ。書いたら言って下さい。直ぐに陛下に持って行きますから」
とまた胸を張った。

…宛先はバレているようだ。

私はカードを認めると、マリアにそれを渡す。

マリアは笑顔で受けとると、直ぐ様部屋を出ていった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

妻のち愛人。

ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。 「ねーねー、ロナぁー」 甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。 そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。

【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと

恋愛
陽も沈み始めた森の中。 獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。 それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。 何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。 ※ ・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。 ・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。

溺愛される妻が記憶喪失になるとこうなる

田尾風香
恋愛
***2022/6/21、書き換えました。 お茶会で紅茶を飲んだ途端に頭に痛みを感じて倒れて、次に目を覚ましたら、目の前にイケメンがいました。 「あの、どちら様でしょうか?」 「俺と君は小さい頃からずっと一緒で、幼い頃からの婚約者で、例え死んでも一緒にいようと誓い合って……!」 「旦那様、奥様に記憶がないのをいいことに、嘘を教えませんように」 溺愛される妻は、果たして記憶を取り戻すことができるのか。 ギャグを書いたことはありませんが、ギャグっぽいお話しです。会話が多め。R18ではありませんが、行為後の話がありますので、ご注意下さい。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~

緑谷めい
恋愛
 私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。  4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!  一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。  あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?  王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。  そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?  * ハッピーエンドです。

処理中です...