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最終話 『理想のオトコ』

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事故から約2ヶ月。
今日は千秋くんのギプスが外れる日だ。

私の仕事が終わったら、久しぶりに外で食事しようよと千秋くんに誘われた。

私は仕事が終わると、ユニフォームから少しオシャレなワンピースに着替えて、化粧を直す。

「あれ?いつもと雰囲気違うね。
さてはデート?」

なんて真奈美ちゃんにからかわれながらも悪い気はしない。

結婚してから約2ヶ月が経つが大変快適に暮らしている。
千秋くんが怪我をしている為に、私の家事の負担は前より増えてはいるが、
その分、出来る限りのサポートをしてくれている。
そして、何より、常に自分の事を大切に思ってくれる存在がいる事が自分を輝かせてくれる事に気がついた。

「うん。今日はやっとギプスが外れるからね。
ちょっとしたお祝いってとこ」

「そっかぁ。でも最近、奏、綺麗になったよね~!
やっぱり幸せな人はオーラが違うね。オーラが。
私も早く結婚したーい!」

「その前に、相手を見つけなきゃ。でしょ?」

「えー。でも出会いもないしなぁ」

「……ガチャでも引いたら?良い事あるかもよ?」
と私は小声で呟いた。

「え?何?あんまり聞こえなかった。何?」

「ん?別に?何でもないよ。じゃあね、また明日。お疲れ様~」
そう行って私は職場を後にした。


今日はちょっとオシャレなイタリアンを食べに行く予定だ。
一緒に暮らしていると、なかなか待ち合わせという物をしない。
今日はデートっぽく待ち合わせをしていた。

駅前のコインパーキングに車を停めて、待ち合わせ場所へと急ぐ。

そこには、すでに千秋くんが待っていた。

「ごめんね。待った?」

「ううん。俺も今来たところ。
今日のワンピースも可愛いね。いつも可愛いけど」

「フフ。何それ。でも嬉しい。ありがとう」

千秋くんは気持ちをちゃんと口にしてくれる。
それがどれだけ安心感を与えてくれるのかがわかったから、私もちゃんと言葉にする事にしている。
特に感謝の言葉は惜しみ無く。

「じゃあ、行こうか」
そう言って、私達は手を繋いで目的地のレストランまで歩いた。

ビルの高層階に入っている、そのレストランは夜景が綺麗だと有名な所。
本当にTHEデートって感じ。

「やっぱり、ここからの夜景、綺麗だね」

「うん。うちのホテルの人達もオススメって言ってくれたんだ」

私達は美味しいイタリアンに舌鼓を打ちながら、楽しく食事を終え、最後のコーヒーを堪能する。

「美味しかったね。今日はありがとう。
誘ってくれて。たまにはいいね。外食も」

「そうだね」

…?なんか、千秋くんの表情が固い。

「どうかした?」

「あ、あのね。奏さん。
えっと…俺と結婚してください!」
そう言って頭を下げる千秋くんに、私は

「…もう結婚してるけど?」
当然の返答だと思う。

「うん。そうなんだけど…プロポーズ…奏さんに先越されたから、あと、これ…」
と照れながら小さな箱を差し出してくれた。

「?プレゼント?開けても良い?」

コクンと頷く千秋くんの返事を待って、私はその箱を開ける。
そこにはペアの結婚指輪が入っていた。

「…まだ働いて、そんな経ってないから…お金、全然貯められなくて。
そんな安物しか買えなかったけど。
やっぱり指輪は着けて欲しいっていうか…お揃いで着けたくて…」

そう千秋くんは言うと1つを取って私の左手の薬指にそっと手を添えた。

「多分、俺は頼りない所もあるし、子どもっぽい所もあるし、もなかにも嫉妬しちゃうぐらい心が狭いけど、でも奏さんを好きな気持ちは誰にも負けないって自信ある。
奏さんがいつも笑顔でいられるように努力します。
だから、俺とずっと一緒に居てください」
そう言って、私の指にそっと指輪をはめてくれた。

「ぴったり…」

まるで最初からそこにあったように馴染んでいる指輪は、確かにそんなに高価なものではないかもしれないけど、そこには千秋くんの気持ちがぎゅうぎゅうに詰まっている気がした。

私ももう1つの指輪を取って、

「私は案外、重たい女だから。これから覚悟しておいてね?
一生、側にいるから。ね?私の『理想の旦那様』」
そして、千秋くんの左手の薬指に指輪をはめた。

私達は、お互いに見つめ合うと『ふふふっ』と2人で笑い合った。




それから、私達は毎日笑顔で過ごした。
子どもが出来て家族が増えて、
毎日がとっても忙しくなっても、きちんとお互いを思い合う事が出来ていると思う。

あの時、ガチャを引いた私を誉めてあげたい。

そして、過去に、男運の無さを嘆いていた自分に言ってあげたい。

「大丈夫。もうすぐ『理想のオトコ』に出会うから」と。
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