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69話
しおりを挟む「メイド……喫茶?」
「はい。それで、店長さんのご友人の……」
「ちょっ!ちょっと待って!!」
「は?どうしました?」
「『どうしました?』じゃないよ!何で?何で、マイラがメイド喫茶で働いてる訳?」
「え?私も働かなければ生きていけませんもの。最初は上手くお客様を喜ばせる事が出来なくて落ち込んだ事もありましたけど、今はオムレツにハートを上手く描く事も、なんなら猫ちゃんも、うさちゃんも得意です!」
とガッツポーズをしてみせる私に、
「マイラ、俺が聞きたいのはメイド喫茶でオムレツにケチャップで何が描けるか?じゃなくてな、どうしてメイド喫茶で働く事になったのか?だ。その経緯。仕事しなきゃ食っていけないのは俺だって重々承知だ。だがな、他にも仕事はたくさんあっただろ?何でよりにもよってメイド喫茶なんだ?」
「それは……」
困った。そういえばチアキも内緒にしていると言っていたではないか。
ハヤトは意外とそういう事に煩く言う質だと。
メイド喫茶のお客様はちゃんとルールを守って、私達メイドときちんとした距離感で接してくれる方が殆んどだ。稀に少し勘違いしている方もいらっしゃるが、うちは店長がそういう事にとても目を光らせてくれているので、そういう方はすぐに出禁になる。安心安全な優良店だ。
だが、それを言ってハヤトは納得してくれるかしら?
それにチアキの事を言うのはチアキを裏切る様で申し訳ない。
私が答えに迷っていると、スマホが鳴った。
画面には『店長』の文字。
鍵を受取りに来る予定の時間を大幅に過ぎた私を心配して連絡してくれたに違いない。
私は咄嗟にスマホにタッチし着信に応えようとするも、それを即座にハヤトに奪われた。
「ちょっと……!!」
と私が手を伸ばすも、ハヤトはスマホを更に私から離して、
「もしもし?誰?」
と物凄く不機嫌そうな声で電話に出てしまった。
店長の声は聞こえない。
私は必死にスマホを奪おうとするも、ハヤトはもう片方の手を伸ばして、更にスマホを遠ざける。
「は?!いや、もうマイラはお前の店、辞めるんで!」
とハヤトは言うと、電話を切ってしまった。
「ちょっと!何勝手な事を言ってるの?!」
私は慌てる。
店長さんはさぞかし驚いただろう。
申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「別に俺が働くし。マイラは辞めたって良いよ」
と不貞腐れたように言うハヤトに、
「もう!私の気持ちを無視しないで!!それにハヤトはまだ大学生でしょう?!せいぜいバイトしか出来ないじゃない!」
と私はつい声を荒げてしまった。
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