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18話
しおりを挟む殿下の許可を得て部屋へ入ってきたハロルド様は、私の姿を認めると目を丸くした。
「これはこれは、妃殿下までご一緒とは…。お噂は本当だという事ですかな?」
と、急に笑顔でハロルド様は殿下に言った。
噂ねぇ…エレーヌ様に聞いたのかしら?
「あぁ。一緒に仕事をしてるんだ。今後、もうずっとマイラと仕事しようと思ってて。
で、ロードスター公爵は何の用かな?」
殿下も笑顔でハロルド様に答える。
2人とも笑顔なのに、何だか怖い。
「妃殿下と一緒に?流石にそれは…」
と苦笑いのハロルド様に、
「別にいいだろう。俺はマイラと一緒の方が仕事捗るんだし。
そんな事より、用件を」
と殿下はハロルド様に先を急かした。
ハロルド様は私の方をチラリと見ると、
「殿下にだけお話したい事が…」
と言葉を濁した。
…父の件だろうか?
私が、
「殿下、私は自分の執務室に…」
と言い掛けると、
「マイラに聞かれて不味い話とかあるの?」
と殿下はハロルド様へ問い返した。
「不味い…というか…」
とハロルド様は口ごもる。
これは間違いなく私の父の件だろう。
「じゃあ、ここで話せば?」
と明るく殿下は言うと、
「マイラは俺の隣に。ロードスター公爵、座ったら?」
と自分の隣の席をポンポンと叩いて私を呼んだかと思うと、今まで私が座っていた席をハロルド様に勧めた。
しかしハロルド様は、
「いえ。殿下もお忙しい様子ですので、また出直しますよ」
と笑顔ながらも、着席を拒否した。
殿下はそれに構わずに、
「出直しても無駄だよ。俺はこれからマイラと執務室を共有しようと思ってるんだ。
だから、ここに俺が居る時にはマイラも一緒に居るものだと思って貰って構わない。
今言わなければ、言う機会なくなっちゃうけど、大丈夫?」
と笑って言った。
その言葉に私も目を丸くする。
いつの間にか、私がここで一緒に仕事をする事が殿下の中では決定しているようだ。
もちろんハロルド様も驚いたのは私と同じ。
「殿下…いつの間に妃殿下とそんなに仲良くおなりになったのです?
こんな事を私の口から言うのは何ですが…今まで…妃殿下とご一緒している所など、殆んど見かけた事がありませんでしたが?」
とハロルド様は訝しげに殿下を見た。
殿下はその視線に気づいているのかどうかはわからないが、
「妻と仲良くして何が悪いんだ?
それとも何か?俺がマイラと仲良くする事がロードスター公爵に不都合でもあるのか?」
とサラッと核心を突いたような言葉を発した。
ハロルド様は慌てて、
「まさか!そんな!不都合などある訳ないじゃないですか。妃殿下はゆくゆくは王妃となるお方。大切にされるのは当たり前です」
と取って付けたような笑顔と共に言葉を返した。
…正直わざとらしい。
ハロルド様は急に態度を変えた殿下の真意を探るように、
「もしや殿下、エレーヌ様と何かあったのですか?」
と訊ねた。
エレーヌ様と連絡を取り合っている筈のハロルド様だが、エレーヌ様が何か隠していると勘ぐっているのかもしれない。
「いや。別に何もないが?
俺は今までの自分の態度を反省しただけだ。
マイラを蔑ろにしていた自分の態度を改める事にしたんだ。
だって当然だろ?守るべきはマイラであって、エレーヌではない」
そう殿下は言い切ると、ハロルド様に、
「この場で言えない事なら、胸に秘めて帰ったらどうだ?
俺はマイラと一緒でなければ話は聞かない」
と暗に『用がない者は立ち去れ』と言わんばかりに冷たく告げた。
ハロルド様はその態度にカチンと来たのか、
「ふぅ…。わかりました。
今回の私からのお話を聞かなかった事を後悔しても知りませんよ?」
と少し脅すように言うと、
「では、私は失礼させていただきます」
と踵を返し、部屋を出て行った。
また殿下と2人きりになると、私は、
「よろしかったのですか?あんな風に煽って」
と殿下の態度を嗜める。
まだ私だって殿下の話を丸っと信じた訳じゃないのだ(何となく丸め込まれている感じは否めないが)私の事を信じ過ぎではないだろうか?
「良いよ。これで明日…荷が届いた時に、ハロルド自らやって来るかどうかだな。
俺が居たらびっくりするだろうけど…あ、マイラ、頼んでいた事…どうだった?」
「一応、父に手紙を出しましたが…まだ返事は…。それに可能であっても数十分かと」
「そうだよなぁ~。まぁ、明日の事は明日にならなきゃわからない…っと。さぁ、今は仕事!仕事!」
とまた書類に目を通し始めた殿下は、『これってどう言う意味』と私に分からない箇所を指し示しながら問いかける。
この人…ついこの間まで『助けてくれ!』って言ってた人?
肝、座りすぎじゃない?
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