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体調不良

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レオ様は朝早くに出発する。
昨日、ほぼ1日寝ていた私も、お見送りの為に早起きした。

「レオ様、こちらをお持ちいただけますか?」

私はこの日の為に刺繍したハンカチを手渡す。
ランバード家の家紋である鷲とレオ様をイメージして剣を刺繍したものだ。

「これは、レベッカが?」

「はい。視察にはご一緒できませんから、私の代わりに側に置いて下さいませ」

「ありがとう。肌身離さず持っておくよ」

「気を付けて行ってらっしゃいませ」

そう言って私は、自分から初めてレオ様に抱きついた。
結婚して約2ヶ月半…3週間も離れているのは初めてだから、やはり寂しさがある。

レオ様は私を優しく抱き締めると、

「レベッカも、体に気を付けて。留守を頼むよ」
そう言って、私の額に口付けをくれた。

私は馬に乗るレオ様の姿が小さくなるまで見送ると、邸の中に戻った。


さて、今日の午前中はフェルナンデスとお勉強。
そして、来週からはランバード領へ行く予定だ。

お義母様がレオ様がいないのならと招待してくれたのだ。
あちらでお茶会を主催するお義母様のサポートをしながら、次期伯爵夫人としての御披露目も兼ねている。
今まで社交をしてこなかった私には、人脈が殆んどない。
お義母様の力を借りて、少しずつ慣れていかなければならない。

緊張はするものの、楽しみの方が大きい。
今まで知らなかった事を知れるのは自分にとって大きな糧になるとこの結婚を通して感じる事が多くなったからだ。

それに、結婚式の準備もお義母様が主導して下さっている。
何もわからない私にとって、先生のような方だ。

色々考えてワクワクしすぎたかしら…何故かあまりお腹が減らない。

「アンナ、申し訳ないんだけど、昼食は軽くで良いと料理長に伝えてくれる?」

「昨日もあまり召し上がっていらっしゃいませんが…お身体に不調でも?」

「ううん。特に悪い所はないわ。
まだ疲れが取れないのかしら?
たくさん休んだはずなんだけど…」

「では、お野菜たっぷりのスープをお願いしてきましょうか?それなら食べられそうですか?」

「そうね。それなら食べられそう。お願い出来る?」

「かしこまりました。では準備出来るまでお休み下さい」

そう言ってアンナはお茶を淹れてくれて、いそいそと料理長の所へ行った。

最近、アンナが綺麗になった。もしや好い人でもできたのかしら?
何故か足しげく厨房に通っているようだし…怪しいわ、問い詰めてあげなきゃ。
そう思うと私も笑顔になった。

……そういえば…レオ様の告白に、私は何も言葉を返していない。
レオ様の事を好きかと問われれば好きと答える事が出来る。
私の周りには家族と使用人ぐらいしか男性は居なかった。領地での友人も使用人の家族だったし、そこには男児はいなかったからだ。
なので、異性として意識した初めての男性がレオ様なのだ。

これが恋愛感情なのかと問われれば、答えは『わからない』だ。
この気持ちが恋なのか…。
それに、私とレオ様は恋愛をする前に家族になった。
この気持ちは家族に感じる情なのか…判断する材料が私になかったのだ。



レオ様が視察に出発して5日になろうとしていた。
本当なら今日からランバード領に向かう予定でいたのだけれど…

「奥様、ご気分はいかがです?もうすぐ医者も到着します。
その前に果実水をお持ちしましたので、少しでもお飲みになりませんか?」

私はこの5日間、なんとなく体の不調を覚えていた。

食欲はあまりなく、何故か眠い。
そして最近では微熱を感じるようになっていた。
そして今朝になって、嘔吐してしまったのだ。

今まで医者の診察は大げさだと断っていた私だが、流石にアンナに叱られて今にいたる。

「うーん。今何か口に入れるとまた吐いちゃいそうなのよね…」

「でも、水分ぐらいは体に入れておきませんと、脱水という症状に陥って、ますます体に悪いそうですよ?」

「…なら、少し」

私はそう言うと、アンナから果実水を受けとる。
柑橘類の入った水は、意外なことに飲むことが出来た。

「美味しかったわ。ありがとう。少しスッキリしたし」

「ようございました」

そうしていると、フェルナンデスが医師の到着を告げる。
今回は何故か女性の医師だ。人払いをして、早速問診と診察が始まった。



「奥様。おめでとうございます。ご懐妊でございます」

……え?

「懐妊……ということは、私のお腹の中に赤ちゃんが?」

「はい。今はまだ安定期ではございませんので、あまり無理をなさらないように。
食事は取れそうな物を。妊娠初期におすすめの食事を料理長に伝えておきましょう。
あまりに吐気が強く食事が取れない時にはご相談下さい。
あと2、3ヶ月もすれば安定期に入ります。それまでは少し頻回に診察をさせて頂きますね」

私はまだ全然膨らんでないお腹に手をあてる。
この中に私とレオ様の赤ちゃんが居る。
間違いなく新しい命が宿っていると思うと、不思議な気持ちだ。

嬉しい…凄く嬉しい。この気持ちを…レオ様と一緒に味わいたかった。
直ぐに知らせたいけど、お手紙や伝言ではなく、自分の口から伝えたい…。

「では、私は侍女の方に今の時期の注意点などを伝えておきます。
あと8ヶ月もすれば赤ちゃんに会えますよ。
それまでは母体が資本です。奥様が口にするものが赤ちゃんの体を作るのですから。元気で丈夫な赤ちゃんを産む為にも、お母さんが元気でないと。では失礼しますね」

医師が部屋から出て少しすると、アンナとフェルナンデスが入ってきた。

「奥様!おめでとうございます!」
アンナは目に涙を浮かべてる。

「奥様。おめでとうございます。レオナルド様に伝言を頼みますか?」

「いいえ。私、自分の口から伝えたいの。
帰ってきてから私が伝えるわ。
…喜んでもらえるかしら?」

「もちろんです。レオナルド様も喜ばれますよ」

「でも、安定期まではあまり長く馬車に乗れないみたいなの。ランバード領には…」

「大奥様には、私から断りを入れておきます。理由が理由ですから、きっとあちらから飛んで来られると思いますよ」

「…フェルナンデスはもしかして妊娠だと思ってたの?今日は女医の方だったから…」

「いいえ?レオナルド様から奥様の診察には女性をと言われておりましたので。
男性の医師に奥様を触らせる事は絶対にダメだとのレオナルド様からの命に従いました」
……そんな理由だったのね…恥ずかしい。

「さぁ、そうとわかれば、これからは栄養価が高く、食べやすい物を用意させましょうね!」
とアンナがはりきって厨房に向かう。
その背中を見ながらフェルナンデスも

「では私も失礼いたします。
伯爵夫妻にすぐに知らせを送ります。
間もなくアンナも戻ると思いますが、何かご用の際にはそちらのベルを鳴らして下さい」
そう言って退室していった。

私はまたそっとお腹に手をあてる

「お母様も頑張るから、あなたも頑張ってね。あなたに会える日を楽しみに待ってるわ」

早くレオ様に知らせたい。
その時の私は幸せに包まれていた。
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