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お兄様と私

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馬車乗り場に着くと、お兄様と手分けして私を探していたウィルも肩で息をしながら、ちょうど、帰ってきたところだった。
私達に気がつくと、

「サミュエル様!お嬢様を見つけて下さったのですね!
お嬢様、ご無事でしたか?
怪我などはされていらっしゃいませんでしょうか?
今回の事は私の不注意が招いた事。
如何様にも処分をお受けいたします。まずは、馬車にお乗り下さい。」
と頭を下げ、馬車の扉を開いてくれた。

「ウィル、心配かけて本当にごめんなさい。私がわざとウィルを撒いたのよ。ウィルは悪くないの。本当に反省してるわ。」
と私はウィルに謝った。

「お嬢様、私なんかに謝る必要はございません。お嬢様がご無事で何よりでした。」
と汗の光る顔で私に微笑んでくれた。

こんなに汗だくになるほど、私を探してくれたのね。本当に申し訳なかったわ。
私は心から反省した。
馬車に乗り、サミュエルお兄様と伯爵家のタウンハウスに帰ってきた。
お兄様は、店を出てから、一言も喋ってくれない。私も何と話しかけたら良いのか、わからずに、2人共無言で帰宅した。

邸に着くと私の専属侍女であるアンナが

「お嬢様!ご無事で何よりです。事故にでも巻き込まれたのではないかと、心配しておりました。こんなことなら、私も付いて行けば良かったと、後悔していたところです。
ウィルに任せたばっかりに…」
と、声を震わせながら、私を抱き締めてくれた。

「アンナ、心配かけてごめんなさい。ウィルは悪くないのよ。全部、私のせいなの。ウィルを責めないで」
とアンナの手を取り話す。

「まずは、お着替えをいたしましょう。お腹は空いてませんか?何か軽食でもご用意いたしましょうか?」
と優しく聞いてくれたアンナに

「お腹は空いてないわ。もう少しで夕食の時間だし。でも、街が少し埃っぽかったから、湯浴みがしたいの。準備してもらえるかしら?」

「もちろんでございます。すぐに準備をいたしますね。」
と2人で2階に上がりながら話をしていると、玄関ホールからお兄様が、

「レベッカ、着替えたらサロンで少し話をしよう。アンナ、その時にお茶の準備を頼むよ」

「はい。畏まりました。」
2階の私の部屋に付き、湯浴みの準備が出来るまで椅子に腰かけた。

(お兄様、やっぱり怒ってらっしゃるわよね。でも、今回のミッションは、私の為にも、レオナルド様の為にも絶対成功させなくちゃ)
と私は意気込んだ。

湯浴みを終え、サロンへ向かうと、すでにサミュエルお兄様がソファへ腰かけてお茶を飲んでいた。

「お兄様、お待たせして申し訳ありません。」

「いや、私が待ってると思って、急かしてしまったんじゃないかな?
さっきの町娘のようなワンピースも可愛かったけど、そのドレスも良く似合ってるね。」
いつものお兄様だ。

「ありがとうございます。」

と私はお礼を言いながら、向かいのソファーに腰かけた。

「レベッカ」

「はい」

「お前は本当にレオナルド殿を愛しているのかい?」
その聞き方に、嘘がばれたのかとドキッとしてしまう。
私は動揺を隠しながら

「今日会ったばかりですので、愛しているかは、まだわかりませんわ。でも、好きになってしまったのは間違いありません。レオナルド様のような方となら、幸せな家庭を築けるのではないかと思って。」
愛してるとは、嘘でもまだ言えそうにない。なので、少しはぐらかした言い方になってしまった。

「そうか…。レオナルド殿は剣の腕も優秀で、王家からの信頼も厚い。
ランバード伯爵家も爵位はうちと同じだが、歴史ある由緒正しい家柄だ。そこは全く問題はないと思うよ。
しかし、私が聞いた噂では、レオナルド殿は、その…女嫌いで今まで、浮いた噂の一つもない。それで…その…言いにくいのだが、男色だと言う噂もあって…。
レオナルド殿は本気でレベッカを想ってくれているのか?もしや、レベッカとの結婚をカモフラージュに使おうと思っているのでは?
お前は騙されているんじゃないのか?」
おっと、お兄様は違う方向で、この結婚を疑ってらっしゃるのね?しかも、レオナルド様が私を騙して結婚しようと思ってると。
この国では、基本的には一夫一妻制だ。王族だけは、正妃様に3年子が授からない場合のみ側室を持つ事が認められている。
そして、他の国ではあまり認められていない同性婚も一応認められている。認められてはいるが、かなり少数だ。残念ではあるが、まだまだ同性婚のカップルには世間の目が厳しい事も事実である。
正直、私もレオナルド様は男色ではないかと疑ってはいる。
歴史ある伯爵家では、もしかすると同性婚は認められないのかもしれない。レオナルド様は次男で、本来であれば爵位を継ぐ事も、後継を求められる事もなかったはずだ。
今回の件で、ジョシュア様が廃嫡され、ますます同性婚へのハードルは上がった事であろう。
今回の事が上手くいって、私と結婚した暁には、是非ともレオナルド様には自由に恋愛を楽しんでいただきたい。
男性の恋人が出来ても、私は受け入れてあげたいと思っている。

「お兄様、それは考え過ぎです。レオナルド様からお気持ちをちゃんとお聞きしましたし、お互い想い合っておりますの。心配しないで下さい。」
と私は微笑んだ。
お兄様もまさか私が男性の恋人ドンとこいという心意気だとは思うまい。

「そうなのか…。本当に2人が想い合っているなら、もう私は反対しないよ。
あぁ。あんなに小さかった私のお姫様が嫁いで行ってしまうなんて。
正直、寂しいよ。」
こんな優しいお兄様を騙しているかと思うと胸が痛む。

「お兄様…ありがとうございます。」私はソファーから立ち上がり、お兄様に抱きついた。

「お兄様、出来れば私達は、婚約期間を設けず、直ぐに結婚したいと思っています。」

「な、なんだって?平民同士の結婚であれば、それでも良いかもしれないが、貴族の間ではそれは難しいだろう。通常は婚約期間を1年以上は設けるものだよ。結婚式の準備すら出来ないじゃないか」

「ええ。私達、お式はどうでも良いのです。1日も早くレオナルド様と一緒に過ごしたいと考えています。」

「2人はそれで良いのかもしれないが、貴族の結婚は家と家の結びつきでもあるんだ、そんな我が儘はお互いの両親が許すはずはないよ」

「我が儘を言っている事は重々承知しております。でも、今すぐでないといけないのです。」

「何をそんなに焦っているんだい?」

「あと20日もすれば…アレックスお兄様が帰国されます」

「あっ。…そうだったね。その問題片付いてなかったなぁ。」
と、サミュエルお兄様と2人で遠い目をしてしまうのでした。
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