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その131
しおりを挟む私達は2人で話していた。
もちろん、リリーとベロニカが同じ部屋に居るが、離れた場所で待機してくれていた。
「シビル…いやもうシビル様って呼ばなきゃな。まさか、お前がこの国にいて…しかも次期王太子妃だなんてな…びっくりしたよ」
「それは私のセリフよ。貴方が…その…駆け落ちをしたって聞いて…まさかこの国に来ていたとはね」
「そんな事まで知ってたのか…。そうか」
「少し前に父から聞いたの。その…子爵家のメイドと…駆け落ちしたって」
「はぁ~。本当に馬鹿な事をしたと思ってるよ」
「メイドと駆け落ちって聞いて、らしくないなって思ったんだけど、事実なのね」
「あぁ。結婚してから、子爵を継ぐために領地経営の勉強やら、なんやらで忙しくて…妻を放ったらかしにしていたら、いつの間にか、修復困難な程の溝が出来ていた。
元々、女性にどうやって接したら良いかなんて、わからないぐらいの男だからな。
どんどんと妻とは心が離れていった」
「…オーランドは元々、昆虫にしか興味なかったじゃない」
「そうそう。学園時代からもっと領地の事とか、色々勉強しとけば良かったんだろうけどさ、お前と結婚するって思ってたから、お前が手伝ってくれるだろうって甘く考えてた」
「貴方、私に領地経営を手伝わせるつもりだったの?」
「シビル…様の方が優秀だったじゃないか。
それに、お前は俺が昆虫に夢中でも何も言わなかったし、結婚しても、なんか上手くやっていけると、漠然と思ってた」
「何よそれ。私は子どもの頃からの貴方を知っていたから、特に何も言わなかっただけよ。
他のご令嬢じゃそうはいかないわ」
「みたいだな。結婚して初めて気づいたよ。
お前が特殊だっただけだと」
「特殊ね…。まぁ、それで?奥様と上手くいってなかった事は分かったけど、どうしてメイドと…」
「魔が差した…とは言えないか。駆け落ちまでするぐらい、のめり込んだのは本当だしな。
なんか…自信がなくなっていた所に誉められたり、優しくされたりしてその気になったんだなぁ」
「駆け落ちまでする程でしょう?そのメイドの方は?彼女とこの国で暮らしてるの?」
「いや…。もう捨てられたよ。子爵家から持ち出した俺の私財が底をついて。
金の切れ目が縁の切れ目って事だ。
彼女も本当なら駆け落ちするんじゃなくて、子爵夫人になりたかったんだよ。
俺が離婚して、自分を選んでくれると思ってたのに、まさか駆け落ちって手段を俺が選ぶとは思ってなかったんだろう。
金が無くなった時に言われたよ『子爵家に戻って、私と再婚しろ!』ってね。
お金がなくなれば、俺が父親に泣きつくとでも思ってたのかな?
俺は駆け落ちする時に廃爵の書類を置いて出たから、もう戻れないし、俺はもう平民なんだって言ったら、速攻逃げられたよ」
「はぁ…。オーランド。本当に貴方って…馬鹿ね。もうキャンベル家には戻らないの?」
「どの面下げて戻れって言うんだよ。ぜーんぶ捨てて、家を出たんだ。流石に俺もそこまで甘くないさ。
あの女と別れてから、この国に来た。もうアルティアに居る事も辛くてさ」
「そうだったの…で、今は此処で?」
「あぁ。孤児院の雑用をさせてもらってる。それに、一応貴族だったからな、ここの子ども達に勉強を教えてるんだ。
もう1年程になるかな」
「貴方がそれで良いなら、私は何も言わない。でも…髭ぐらい剃ったら?随分と…老けて見えるわよ?」
「そうか?渋くなったつもりだったんだけどな」
とオーランドは無精髭を撫でながら笑った。
それにつられて私も微笑んだ。
「…シビル…お前笑えたんだな」
「失礼ね。前もたまには笑ってたでしょう?」
「いや?俺は見たことないな。いや待てよ?…お前が子どもの頃に1回見たかも…美味しいお菓子を食べた時だ」
「私が食いしん坊みたいじゃない。でも、覚えてる。オーランドのお母様がお土産で頂いたお菓子を食べさせてくれたの。とっても美味しくて感動したもの」
「あの時に、ちょっぴり嬉しそうなお前を見て、可愛いなって思ったんだ」
「……嘘つき。可愛いなんて、貴方に言われた事なんてないわ」
「はは。言ったことはないが、お前を可愛いとは思ってたよ。お前が婚約者で嫌だなんて思った事は1度もない。
まぁ…恋愛感情ではなかったな。親戚の女の子って感じだ」
「それは、私も同じよ。私だってオーランドを嫌だなんて思った事は1度もなかったわ。
例え昆虫に夢中で、私になんて興味はなくても」
「そっか。俺達はお互い同じ様に思ってたのかもな。
……幸せになれよ。王太子妃なんて、子爵家の領地経営なんかよりずっと大変だと思うけど」
「うん。オーランドも。いつか自分を許せる日が来たら、幸せになってね」
「おう。良かったよ。会えて」
「私も。オーランドの無事な顔を見られて…良かった」
私達はどちらともなく、手を差し出して、握手を交わした。
私はオーランドに会えた事を嬉しく思いながら、孤児院を後にした。
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