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その129

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「お疲れ。これで婚約披露は終わりだ」

「無事…って言って良いんですかね?これ」

「まぁ、一応、無事に終わったって言っておこう」

私とクリス様は着替えてから私の部屋で話していた。

「簡単に受け入れられるとは思っていませんでしたが…。仕方ないですね」

「これからの俺達を見てもらえば良いさ。周りがなんと言っても、お前と結婚する事実は変わらんからな」

「そうですね」

私がそう言うと、クリス様は飲んでいたお酒を置いて、

「シビル…指を出せ」

「指?こうですか?」
と私が両手をパーにしてクリス様の前に差し出すと、

「あ~左手だけで良かったんだがな。まぁ、いいか」

と言って私の左手の薬指を摘まむとそこに指輪を嵌め込んだ。

「指輪?」

「お前の国では、結婚の約束をしたら相手に指輪を贈るんだろう?」

「…よくご存知でしたね…」

「お前の…主。今は元だな。王女に聞いた。それぐらい用意しておけと言われてな」

「ミシェル殿下が…」

「あぁ。どうだ?気に入ったか?」

「…はい。嬉しいです」

「お前…最近、少し笑うようになったな。ほんの少しだけど…その方が良い」

「そうですか?…努力します」

「笑顔って…努力するものなのか?まぁ、なんでも良い。お前と一緒に居れるなら」
そう言ってクリス様は私を抱き締める。

「今日は…足を2回も踏んでしまって…申し訳ありませんでした」
抱き締められた事が恥ずかしくて、つい誤魔化すように話をしてしまう。

「そうだったか?じゃあ今度は1回になるように、もう少し練習するか」

「…一緒に練習してくれますか?」

「もちろんだ。他の男と踊るなよ?特にオットーはダメだ」

「フフッ。何回かキャンベル医師には練習に付き合うって言われましたけど。講師の方が女性ですが男性パートも出来るので必要ないと断りました」

「それで良い。それと…明日からベロニカがお前の護衛につく。なんとか説得出来た」

「そんな…申し訳ないです。もう引退された方なのでしょう?」

「あいつもそろそろ体を動かしたい頃だろう。その代わり、毎日って訳じゃない。近衛も女騎士を集めたつもりだが…全部を女性にするのは不可能だったからな。なかなか思い通りにはならんもんだな。お前の周りから男は排除したいんだが」


「それこそ、無理ですよ。大丈夫ですよ。そんな心配しなくても」

「なら良いんだけどな。なぁ…こんな時になんなんだが…結婚式の日取りなんだがな…」

「はい。準備を始めなくてはいけませんね。いつに決まりましたか?」

「…その…なんだ…3ヶ月後だ」

「はぁ!?3ヶ月後?早すぎません?」
私は思わずクリス様の胸を押して体を離す。

「そう言われると思ったんだがな…」

「何か…重大な理由があるのですか?」

「んー。重大と言えば、重大だ」

「良かったらお聞かせ願えますか?」

「あ~。俺が我慢出来ないんだ。早く結婚したい。重大だろう?」

……我慢出来ない事の内容は聞かないようにしようと心に決めた。
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