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その118
しおりを挟む「お前がとにかく鈍い男だって事はわかった。しかしだな、ローザリンデの勘違いはお前のせいだ。なるべく早く、シビルちゃんとの婚約の件はきちんと話せよ?」
「…あぁ、わかった。まさかローザリンデが俺に好意を持っていると思わなかったが…ちゃんと説明するよ」
そう言うとクリス様は、私に向かって、
「シビル…悪かったな。どうも俺は女性の気持ちの機微に疎い。その怪我の半分は俺のせいだ。守ってやれなくてすまなかった」
と謝った。
私は横に首を振る。
クリス様に謝って欲しい訳じゃない。
…そんなにクリス様の結婚を望んでいる人がいるのに、私が王太子妃になんて、なって良いのだろうか?
いつでもこの場所を譲ってあげたいのだが、それではクリス様の気持ちを無視する事になってしまうし…あぁ…何だか色々と上手くいかないな…。
疲れちゃった。
ミシェル殿下の侍女をするのも、もちろん大変だったけど。今はあの時間を恋しく思う。
私の疲れた顔を見て、何かを察したのかイヴァンカ様が、
「さぁ、男2人はもう出ていって頂戴。私はシビルを休ませるから」
と言って2人を追い出してくれた。
2人を見送った後、私に向き直り、
「シビル…大丈夫?」
と私を心配そうに見るイヴァンカ様。
私は、
『やっぱりちょっと疲れたみたいです。少し休みます』
と文字に記す。続けて、
『今日の夕食はいらないと、イブとニーナに伝えて下さい』
と書いた。
それを読んだイヴァンカ様は頷いて、
「わかったわ。あまり顔色も良くないし、少し休むと良いわ。また明日…顔をだすわね」
と私の背中を擦ってくれた。
私は着替えて寝台に横たわる。
広くてフカフカの寝台に体が沈む。
見慣れない天井。落ち着かない豪華な部屋に、びっくりする程手触りの良い夜着。
全部クリス様が、私の為に用意してくれた物だ。
私はそれに対してずっと違和感を感じたままだ。
侍女の仕事には正解があった。けど、クリス様の婚約者という立場の正解がわからない。
どう振る舞うのが正解?
考えても考えても答えは出ない。
王太子妃は私に与えられた仕事。だから精一杯やるしかないのだ。
ふぅ。また頬が少し痛みだした。心も疲れてしまった。
痛み止めを飲んで、本当に眠ってしまおう。
そして、明日にはいつもの元気な自分に戻りたい。私はそう願った。
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