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その111
しおりを挟むその声に驚いた私とキャンベル医師がクリス様に顔を向けると、
「オットー!シビルから離れろ!今すぐだ!」
と言って大股で近づいてきたかと思えば、キャンベル医師の手から濡れた布を取り上げた。
キャンベル医師は、
「おい!クリスティアーノ!僕は医師としてシビルちゃんの手当てをしているだけだ。邪魔するな」
と言って、クリス様からその布をまた取り返す。
いつの間にやら、布の争奪戦になっていた。
私はそれを尻目に、もう1枚新しい布を探すと、それを水に浸して軽く絞り自分の頬に当てた。
元々、これぐらい1人で出来るので、わざわざ医師の手を煩わせる必要はない。
2人は一頻り揉めた後、私を見て、
「「俺(僕)がやる!」」
と見事にハモっていた。
私が、
「だいじょうぶれす。じぶんでやれまふ」
と言うと、クリス様は青ざめて、
「喋れない程酷いのか?!」
と大声を出した。
キャンベル医師は、
「クリスティアーノうるさい!頬が腫れてるし、口の中も切れてる。喋り難いんだと思うから、無理に喋らせるな」
とクリス様を睨んだ。
クリス様はそんなキャンベル医師を無視するように、
「シビル、少し手を離して俺に頬を見せてみろ」
と私に話しかけた。
私は小さく頷くと、布を頬から少し離してクリス様に頬が見えるようにした。
「赤くなってるな…骨には異常はないのか?」
と訊かれて私はついキャンベル医師を見る。
骨については、キャンベル医師は何も言ってなかったが、自分では分からない。
私の視線を受けて、
「多分、骨折はしていないだろうが、明日になればもっと腫れるかもしれない。
腫れが引くまでは少し時間が掛かるだろう。
ローザリンデが思いっきり叩いたからな」
とキャンベル医師が私の代わりに答えてくれた。
「どうしてこんな事を。あいつ…絶対許さない」
とクリス様が言えば、
「お前のせいじゃないのか?シビルちゃんが着ている、そのドレスが自分の物だとローザリンデは喚いていたぞ?心当たりは?
まさか、ローザリンデにも同じデザインのドレスを贈ったのか?」
と言うキャンベル医師の問いに、
「そんな訳あるか!俺は今まで女にドレスなど贈った事はない。シビルが初めてだ」
クリス様は怒ったように答えた。
「じゃあ、何故ローザリンデが勘違いしてるんだ?」
「知らん!俺には全く身に覚えのない事だ」
…2人が言い争った所で私を叩いた理由を知るのは、当の本人、ローザリンデ様だけだと思うが、2人はそれからも長々と揉めていた。
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