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その97
しおりを挟む「それと…だな。王女がランバンに向かって発ってからなんだが…シビルさえ良ければ、王城に住んで貰えないか?」
「フェルト公爵邸で暮らすのかと思っていたのですが…」
「フェルト女史がそう提案しているのは、知っている。だから、もし良ければ…なのだが…」
何故かクリス様はモジモジしている。もっと、堂々と命令しても良いのに。
ここまで強引だった割に、ここにきて急に私の意思を尊重してくれる気になったようだ。
「…では、王城に住まわせて頂きたいと思います。少しでも殿下の事を知りたいと思っておりますし…」
と私が言うと、クリス様は嬉しそうに、
「そうか!良かった!実はもう、部屋の用意は出来ているんだ。ここは俺の部屋だが、この隣は夫婦の寝室。その向こう隣が王太子妃の部屋となる。つまり、そこがシビルの部屋だ。少し見てみるか?」
とキラキラした目で私を見ている。
ここで、断る訳にはいかないだろう。
「…では、拝見させて頂いても?」
すると、クリス様は私の手を引いて、廊下側から私に用意したと言う部屋へ向かった。
夫婦の寝室を通らなかったのは、私への配慮だろう。…まだ婚約者だしね。
「ここだ」
と扉を開けると、そこは広々とした居室だった。
白と金を基調とした家具。大きな窓には紺色に白の刺繍が眩しい重々しいカーテンがかかっている。
…全体的に白っぽいので明るいし、パッと見ただけでも、全てが高価なのがわかる。…ここで暮らすの?壊したりしたらどうしよう…。
私が、青ざめていると、
「どうした?気に入らなかったか?」
と心配そうに、訊くクリス様に、
「いえ。素晴らしいお部屋だと思うのですが…あの…壊したらどうしようかと…」
と私が言うと、クリス様は笑った。
「そんな事、気にするな。ここの物は全てお前の物だ。どう使おうが、壊そうが、お前の好きにしたら良い」
…そんな割りきれる訳がない。
そんな私の心も知らず、クリス様はまた私の手を引いて奥の扉へと案内する。
そこは私の寝室だった。
天涯付きの大きな寝台がドーンと鎮座しているのに、全然狭くない。これが寝台?広すぎて落ち着かないかも…。
その壁一面にはクローゼットがついており、そこをクリス様が開くと、ずらりとドレスが掛かっていた。…え?これ誰の?
私が目を丸くしてそのドレスを眺めていると、
「どうだ?女性のドレスなど選んだ事がなかったから、知り合いに頼んで選んで貰ったんだ。気に入ったやつはあるか?無いなら、また作らせる」
と、さらりと怖いことを言ってのける。
また作らせる?では、このドレス、全てオーダーメイド?私の為に?
「こ、このドレスは私の…で御座いますか?」
「当たり前ではないか。サイズは、お前がここのお仕着せをサイズ直ししただろう?それを元に作らせた。
本来なら、きちんと採寸した方が良いとデザイナーには言われたがな。
さすがに採寸はさせて貰えないだろうと思ってな」
……ちょっと待って。ドレスって、そんな早く作れる物?
ここの家具だってそうだ。私との婚約の話が出たのは、ミシェル殿下とアーベル殿下との婚約破棄がきっかけの筈。
それから、今まで…半月程?いや、それよりも短いのでは?そんな時間で用意出来るものなのか?
「あの…これ程の物。ドレスにしてもお部屋にしても…ですが、支度には…お時間が掛かるものだと思っておりましたが…」
と私が恐る恐る訊ねると、
「ああ、時間が無かったからな、急がせた。結局3ヶ月掛かってしまったがな」
「え?3ヶ月?!」
…それって、私と殿下がこのベルガ王国に来た直後じゃない?
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