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その95
しおりを挟む私はその日の夜、クリス様に呼び出された。
今回は、執務室ではなく、王城にある私室の方だ。
「呼び出してすまないな。今日、こちらに帰ったと聞いたものだから」
「いえ。私も殿下にお話したい事があったので、丁度良かったです」
「話したい事?それは何だ?」
「いえ…殿下のお話を伺ってからで結構です」
「俺の話しは後で良い。先に話せ」
「では。今日、ミシェル殿下に、私がこの国に残る事、王太子殿下の婚約者となる事をお話しました」
「そうか。王女はなんと?」
「『わかった』と」
「それだけか?」
「それだけです」
「随分とあっさりしてるな」
「私も少し拍子抜けしましたが、引き留めるような真似をするとも思えませんでしたから、らしいと言えばらしいのかもしれません。
それに、この数日で、ミシェル殿下は本当に変わられました。もちろん、良い方向にです」
「…そうか。アーベルも王女の事は気にしていた。自分にも足りない所が多々あったのに、全てを王女の責任にしてしまったと」
「…今さらです。ミシェル殿下は既に前を向いておられます。アーベル殿下にはそのようにお伝え下さい。
お気遣いありがとうございました」
「王女はランバンに嫁ぐ事を納得しているのだな」
「もちろんで御座います。今はご自分の立場をしっかりと理解しておられます。
それに、私はランバンへは付いて行けませんが、殿下が連れて来て下さいました、レジーとユリアがミシェル殿下に付いて行ってくれる事になりました。
もちろん、ランバンからも了承を得ております。
レジーとユリアを見つけて下さった事、殿下には感謝しております」
「俺があの2人を連れて来たと、お前に言った事があったかな?」
…あれ?もしかして、戸棚の中で聞いた話しだったかも?!不味い。
「イ、イヴァンカ様からお聞きしました」
「あぁ、そうか。フェルト女史からか。なるほど」
ふぅー。危ない、危ない。
「それで…私の事なのですが…」
「あぁ。話しの本題はそれか?」
「はい。ミシェル殿下がランバンへ向かうその日まで、侍女の仕事を全うしたい考えは変わりませんが、王太子妃教育を1日でも早く始めたいので、出来ればその時間だけでも、王城の侍女を貸して頂けませんでしょうか。
私の不安を取り除く為、いざとなったら補佐を付けると仰って頂いた事は、感謝しております。
しかし、なるべく、自分の力で頑張ってみたいと思うのです。
どうしても無理な時には、甘えさせて頂くかもしれませんが、最初から甘えてしまえば、私が努力を怠るかもしれません。
まだ、不安はありますが、何事も最初は誰でも不安に思うもの。
自分に自信をつける為にも、出来る限り努力したいと思っております」
と私はクリス様に頭を下げた。
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