上 下
75 / 140

その75

しおりを挟む

「あの日、怒っていたのは、王太子殿下とアーベル殿下ではありませんか?
ミシェル殿下の振る舞いに。
私はあの日、自分が体調を崩した事を後悔しました。でも、きっと遅かれ早かれこうなっていたと思うのです。
ミシェル殿下はお2人のお眼鏡に叶う事は無かった。
でもその一方で、あの日のお茶会で私が殿下の側に居れば、こんな風に婚約破棄される事はなかっただろうとも思うのです。
なので、怒るとすれば、自分自身に…ですかね」

「それは、違う。俺達は…。いや、なんと言っても…言い訳になるな。
しかし、俺達が…焦っていたのは認める。婚約式までに何とかしなくては…と焦っていた。
アーベルはこの結婚を嫌がっていたし、アルティアは婚約解消に首を縦に振らなかった。
強行手段に出た事は認めよう。ただ、シビル…お前に責任はない」

「アルティアにとって、ベルガ王国の王族との婚姻は願ってもない事でしたので、婚約解消を認める事は難しかったでしょう。
アルティア側の気持ちが理解出来る故に、私の不甲斐なさに腹が立つのです。
ミシェル殿下をお守り出来なかった。
私は主を守る事も、導く事も出来ませんでした…侍女失格です」

「…っ。違う。そんな事はない。お前は良くやっていた」

「…ありがとうございます。
でも、こうやって言えるのもランバンとの婚姻が決まったからです。
フェルト女史には心から感謝しております。
…そういえば、フェルト女史から時間を作るように言われたのですが…此処には王太子殿下しかおられませんよね?」
と私が言うと、クリス様は、手紙を差し出してきた。

「フェルト女史からだ」
私はその手紙を受け取って中を確かめた。


〈シビル。騙すようになってしまってごめんなさい。貴女から無視をされてすっかり落ち込んでしまった、の為に一肌脱ぐ事にしたの。
出来れば怒らずクリス殿下の話を聞いてあげて頂戴ね〉



フェルト女史からの手紙には、そう書いてあった。
私は手紙を封筒に仕舞うと、

「王太子殿下は、私にお話があったのでしょうか?」
と訊ねる事にした。
フェルト女史から話を聞くよう書かれていたのだ。その通りにするしかない。

私にそう訊かれたクリス様は、

「もう、名前では呼んでくれないのか?」
と少し寂しそうに私に問いかける。

「元々、名前で呼んで良いような御方ではなかったのです。従来の形に戻っただけです」

「…俺が願ってもか?」

 「一介の侍女には過ぎた事です」

「その事だが…お前、いや、シビル。シビルは侍女ではなくなる」

「!どういう事でしょう?私は…今回の責任を取る形で辞めさせられるのでしょうか?」 


…今回の婚約破棄騒動で、私のクビは無くなったのだと思っていた。それをベルガ王国側が決める権利がなくなったから。

しかし、アルティアからすれば、私は侍女失格。そうか…アルティア側からクビにされた事をわざわざクリス様はこうやって私に伝える為に話をしようとしていたのか…。

今まで、避けていた事を申し訳なく感じていた私に、

「いや…そうではなく。シビルには、この国に残って貰う事になる。……俺の婚約者として」

……は?空耳?なんで私がクリス様の婚約者?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!

香取鞠里
恋愛
マリアは子爵家の長女。 ある日、父親から 「すまないが、二人のどちらかにウインド公爵家に嫁いでもらう必要がある」 と告げられる。 伯爵家でありながら家は貧しく、父親が事業に失敗してしまった。 その借金返済をウインド公爵家に伯爵家の借金返済を肩代わりしてもらったことから、 伯爵家の姉妹のうちどちらかを公爵家の一人息子、ライアンの嫁にほしいと要求されたのだそうだ。 親に溺愛されるワガママな妹、デイジーが心底嫌がったことから、姉のマリアは必然的に自分が嫁ぐことに決まってしまう。 ライアンは、冷酷と噂されている。 さらには、借金返済の肩代わりをしてもらったことから決まった契約結婚だ。 決して愛されることはないと思っていたのに、なぜか溺愛されて──!? そして、ライアンのマリアへの待遇が羨ましくなった妹のデイジーがライアンに突如アプローチをはじめて──!?

関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている

百門一新
恋愛
人族貴族の公爵令嬢であるシェスティと、獣人族であり六歳年上の第一王子カディオが、出会った時からずっと犬猿の仲なのは有名な話だった。賢い彼女はある日、それを終わらせるべく(全部捨てる勢いで)隣国へ保留学した。だが、それから数年、彼女のもとに「――カディオが、私を見ないと動機息切れが収まらないので来てくれ、というお願いはなんなの?」という変な手紙か実家から来て、帰国することに。そうしたら、彼の様子が変で……? ※さくっと読める短篇です、お楽しみいだたけましたら幸いです! ※他サイト様にも掲載

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

処理中です...