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その75
しおりを挟む「あの日、怒っていたのは、王太子殿下とアーベル殿下ではありませんか?
ミシェル殿下の振る舞いに。
私はあの日、自分が体調を崩した事を後悔しました。でも、きっと遅かれ早かれこうなっていたと思うのです。
ミシェル殿下はお2人のお眼鏡に叶う事は無かった。
でもその一方で、あの日のお茶会で私が殿下の側に居れば、こんな風に婚約破棄される事はなかっただろうとも思うのです。
なので、怒るとすれば、自分自身に…ですかね」
「それは、違う。俺達は…。いや、なんと言っても…言い訳になるな。
しかし、俺達が…焦っていたのは認める。婚約式までに何とかしなくては…と焦っていた。
アーベルはこの結婚を嫌がっていたし、アルティアは婚約解消に首を縦に振らなかった。
強行手段に出た事は認めよう。ただ、シビル…お前に責任はない」
「アルティアにとって、ベルガ王国の王族との婚姻は願ってもない事でしたので、婚約解消を認める事は難しかったでしょう。
アルティア側の気持ちが理解出来る故に、私の不甲斐なさに腹が立つのです。
ミシェル殿下をお守り出来なかった。
私は主を守る事も、導く事も出来ませんでした…侍女失格です」
「…っ。違う。そんな事はない。お前は良くやっていた」
「…ありがとうございます。
でも、こうやって言えるのもランバンとの婚姻が決まったからです。
フェルト女史には心から感謝しております。
…そういえば、フェルト女史から時間を作るように言われたのですが…此処には王太子殿下しかおられませんよね?」
と私が言うと、クリス様は、手紙を差し出してきた。
「フェルト女史からだ」
私はその手紙を受け取って中を確かめた。
〈シビル。騙すようになってしまってごめんなさい。貴女から無視をされてすっかり落ち込んでしまった、ヘタレの為に一肌脱ぐ事にしたの。
出来れば怒らずクリス殿下の話を聞いてあげて頂戴ね〉
フェルト女史からの手紙には、そう書いてあった。
私は手紙を封筒に仕舞うと、
「王太子殿下は、私にお話があったのでしょうか?」
と訊ねる事にした。
フェルト女史から話を聞くよう書かれていたのだ。その通りにするしかない。
私にそう訊かれたクリス様は、
「もう、名前では呼んでくれないのか?」
と少し寂しそうに私に問いかける。
「元々、名前で呼んで良いような御方ではなかったのです。従来の形に戻っただけです」
「…俺が願ってもか?」
「一介の侍女には過ぎた事です」
「その事だが…お前、いや、シビル。シビルは侍女ではなくなる」
「!どういう事でしょう?私は…今回の責任を取る形で辞めさせられるのでしょうか?」
…今回の婚約破棄騒動で、私のクビは無くなったのだと思っていた。それをベルガ王国側が決める権利がなくなったから。
しかし、アルティアからすれば、私は侍女失格。そうか…アルティア側からクビにされた事をわざわざクリス様はこうやって私に伝える為に話をしようとしていたのか…。
今まで、避けていた事を申し訳なく感じていた私に、
「いや…そうではなく。シビルには、この国に残って貰う事になる。……俺の婚約者として」
……は?空耳?なんで私がクリス様の婚約者?
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