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その64

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「ど、どういう事よ!私との結婚はお互いの国にとって、大切なものなんでしょう?!勝手にそんな事、許されるわけないじゃない!」

ミシェル殿下は、かなり動揺している。この結婚が例え嫌だったとしても、これが国と国との契約である事は理解していたようだ。


それを聞いてアーベル殿下は前に出て、

「今回の婚姻は、ベルガ王国からは軍事力、アルティアからは鉱物に対する関税の撤廃、この結びつきを強化する為という名目で結ばれたものだが、こちらとしては、婚姻は無理に結ばずとも同盟という形で軍事力を貸し出すつもりだったし、その代わりに関税を撤廃して貰うんだ。結婚はオマケのような物で、こちらは望んだものではない」
と冷たく告げた。

「そ、そんな…わ、私だって望んでこんな所に来たわけじゃないわ!勝手な事言わないで!」

ミシェル殿下は動揺し過ぎて言ってはいけない事を口にしている事に気づかない。

「ほう。『こんな所』か。まぁ、確かに、ミシェル王女はこちらに来てからというもの、この国の者達との交流を避け、この国に馴染もうという努力は…あまり見えなかったな」
とクリス様は言う。

「な、私はちゃんと、この国について学んだし、この国のマナーも学んだじゃない!」

「…フェルト女史のお陰で、マナーについて学んだ事は確かだろうが…では、何にもならんな。
俺たち獣人は人間より何倍も嗅覚が優れている。香水をつける時はかなり気をつけるべきだ。特に飲食の時はな。
庭園に出て気づかなかったか?この城の庭園には、あまり匂いの強い花が植わって無いことに」

…クリス様に言われて、確かにそうだと気づく。
どうりで、アルティアで見たことがない花が多い筈だ。
アルティアの王宮に植えられている花々は香りも強い物が多かった。
アーベル殿下の育てていた薔薇も、薔薇なのに香りは少なかった。

「!そ、そんなの…言って貰わなきゃ分からない!」

…ミシェル殿下に獣人の嗅覚について、私が注意した事はあるのだが…きっとちゃんと聞いてくれていなかったのだろう。

「自分が嫁いで来る国の事をもう少し知ろうとしてくれていたらな」
とアーベル殿下は言った。
それに続いて、クリス様は、

「この婚姻の契約に『ベルガ王国に害をなす心づもりがあれば、直ぐ様アルティアに返還する』という一文を入れた事を自分ながらに誉めたいよ。
これを入れる時、アルティアの王太子である、君の兄はかなり憤慨していたんだ。こちらを信用していないのかと。
信用していなかったのはどちらだろうな?わざわざ婚姻を結ばずとも同盟を結ぶとこちらはきちんと言っていたのに、自分の妹を使ってこちらの王族と縁続きになろうとして」

…これは強烈な皮肉なのだろう。アルティアと縁続きになる事はベルガ王国にとって利益になる事ではないと言う。

しかし…害をなす…とは?
ミシェル殿下は、害をなす人物と捉えられたって事?
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