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その57

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「クビって…そんなまさか!」

フェルト女史はそう言ってくれるが、レジーだって私が辞めると侍女長に聞いていたのだから、きっと間違いない。

私は、たまたまクリス様から立ち聞きした話と、レジーから聞いた話をフェルト女史に説明する。

すると…

「なるほどね。これは私から言って良い話じゃないと思うから、詳しい事は話せないけど、シビルさんは、クビになるって言うのとは、ちょっと違うと思うわ」

「えっと…?もしかして、私が此処を辞めなくてはならない理由…フェルト女史はご存知なんでしょうか?」

「うーん。知っていると言えば知っているし、知らないと言えば、知らないわね」
なんとも曖昧な話だ。

私が首を傾げていると、

「とにかく。貴女が何かした訳ではないし、はっきりした事が分かるまで、貴女は貴女の仕事を全うしていれば良いと思うわ。
ごめんなさいね。こんなあやふやな話しか出来なくて」
と、フェルト女史は申し訳なさそうに、私の手を握った。

「いえ…今は何もわからなくて、少し不安はありますが、私は、私の仕事を頑張ります。
それに、先程のフェルト女史の話から勇気を貰いました。
お話、聞かせて頂いて、ありがとうございました。それでは、そろそろ失礼します」
私はそう言って、部屋を出た。

廊下で控えていた護衛から、

「送ります。宰相から言われておりますので」
と声を掛けられた。

一介の侍女に大袈裟だが、此処が、許可なく立ち入れない場所だとわかり、納得する。

私はありがたく送ってもらう事にした。


フェルト女史だって、たくさん苦労してこの場所に辿り着いたんだと思えば、勇気がわいてくる。

私は此処を辞めた後の事を考えるのは一旦置いといて、今は殿下のお世話に尽力する事に決めた。

そうと決まれば、やる事は1つ。
殿下がこの国で、少しでも過ごしやすくなるように、力を尽くすだけだ。
私は自分のやるべき事が決まって、少し心が軽くなった気がした。

私が殿下の元に戻ると、レジーが頭を抱えていた。
私がどうしたのかと訊くと、アーベル殿下が庭に出る日を訊いて来いと言われたと。

そりゃあ…無理だ。

庭師だって、暇があればと言っていたぐらいだから、いつとは決まってないだろうし、たかが侍女にアーベル殿下の行動を教えてくれる訳がない。

私はレジーに、心配しなくて良いと伝えて、その後を引き受けた。


私は、他の部屋で寛ぐ殿下に、

「アーベル殿下の予定は分かりかねますが、今度のお茶会で、花についてお話すると喜ばれるかもしれませんね?」
と提案する。

すると、

「なら、今から庭師に殿下が育てている花について訊いて来て」
と命令された。

私は墓穴を掘ったのかもしれない。
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