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その49

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私は動揺しながらも、殿下の部屋に戻る。

ちょうど区切りが良かったのか、フェルト女史が、

「今日はこの辺りにしましょうか?」
と殿下に声をかけている所だった。

私はすぐにお茶の用意をする。

フェルト女史はお茶を飲みながら、

「殿下もたまに、お庭をお散歩してみてはいかがですか?客人であっても入れる庭園が御座いますのよ?」
と提案してくれる。

確かに、この国に来てからの約1ヶ月、殿下が体を動かしたのは、ダンスのレッスンぐらいだ。

元々、アルティアに居る頃から、殿下は外に出る事を億劫に感じており、あまり庭を散策するタイプの令嬢ではなかった。
花にも殆んど興味はないらしい。

薦められた殿下は、
「気が向いたら、行ってみます」
と、気のない返事だ。

フェルト女史は苦笑いする。

きっと、今まで殿下を教えていた家庭教師なら、
『なんですか?その話し方は。貴女は高貴な身分。そんな平民のような口調では、どこにも出せませんよ』
ぐらいは言われていただろう。
まぁ、はっきり言えば、その教師の言う事が正しいのだが。

フェルト女史は、あまり頭ごなしに殿下を責めない。心が広すぎて神様じゃないかと思う。

フェルト女史は、どうやってこの国で、自分の立場を確立していったんだろう。

しかも、ランバンで辛い目にあって、その上、国を出されてからは平民としてベルガ王国にやって来たと言っていた。

それが今や、宰相夫人。

クビになるかもしれない今、私は、フェルト女史のように、宰相夫人になりたいなんて言わないから、この国でも働ける職業婦人になりたい。
後で、フェルト女史に相談してみようか?

私はさっきの廊下で聞いた話をまた思い出し、悶々としてしまう。


そんな私に殿下が、

「ねぇ、さっきは何処に行ってたの?」
と訊いてきた。

私は、フェルト女史も居るし、今の内に話をした方が良いだろうと判断し、

「実は、殿下に侍女をあと2人付けるというお話をされました。
その2人は…人間です。獣人の方ではありませんので、殿下としても、側に置きやすいかと。
私1人では、何かと殿下にご不便を掛ける事も御座いますので、私としては、有難い話だと思うのですが。もちろん、殿下のお気持ち次第で御座います」
そう私が報告すると、

「ふーん。まぁ、いいんじゃない?シビルだけだと、私の仕度に時間掛かるし」
と言われた。

…この状況にしたのは、殿下ですよ?と言いたい。

「では、侍女長へお返事して参ります。明日から此方へ来て頂きましょう」

と私が言うと、フェルト女史が、

「シビルさんも、少し楽になりますね。お休みもなかなか取れなかったでしょう?」
と私を労ってくれた。やっばり神!

そう私が感動した矢先に、その言葉を聞いた殿下は、

「この娘、ちゃっかりサボるから、大丈夫よ。勝手に休んじゃうんだから」
と憎々しく言う。

……サボった覚えはない。全部クリス様のせい。
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