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その17

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さて、侍女2人を見送った私は殿下へ向き直ると、

「殿下、あと1時間半後に謁見の間で陛下にお目通りだそうです。
相応しい装いにお着替えを致しましょう。
お茶は先ほどの侍女の方にお願いしています。
少し休んでから湯浴みを致しますか?それとも、直ぐに旅の埃を落としましょうか?」
と私が訊ねると、

「会いたくない」
と面白くなさそうに言う殿下。

『会いたくない』と言われて『じゃあ止めましょう』って言ってあげる事は出来ないので、

「先に、湯浴みをしましょうか。さぁ、湯殿へ参りましょう」
と私は有無を言わさず、殿下を立たせた。

「あんた!ちょっと聞いてたの?私は嫌だと言ったのよ!」

正しくは『会いたくない』と言われたのであって、『嫌だ』とは言われてない。

「もちろん、殿下のお声は聞こえておりますよ。しかし、今の殿下には『少し休んで準備する』か『直ぐ様準備を始める』の二択しか御座いませんので。
それ以外のお答えについては却下一択です。
さぁさぁ、時間は限られているのですから」
と、私はぐいぐいと殿下を湯殿まで連れていく。

私はこの殿下と過ごす日々で、腕力と体力がついてきた。ちなみに、忍耐力と精神的もだ。

「ちょ、ちょっと、押さないで!クビにするわよ!」
馬鹿の一つ覚えみたいに『クビ』『クビ』って言うけど、じゃあ、1人で準備が出来るのか?

「はいはい。殿下が全てをお1人でなさるなら、いつでもクビにして下さい。
さぁ、ワンピースを脱いで、体を洗いましょうね」

殿下はその後も何かとグダグダ言っていたが、私をクビにする事なく、湯浴みを終えた。

抵抗したって無駄なんだから、黙ってりゃあいいのに。


湯殿から出ると、お茶のワゴンが用意されていた。
きっと湯上がりで暑くなっている事も考えてくれたのだろう、果実水も用意されている。

「殿下、お茶と果実水、どちらになさいますか?」
と私が訊くと、これまた面白くなさそうに

「果実水」
と答える。

全身で不満を伝えようと頑張っているようだが、全て無駄な行為だ。

私は殿下に果実水を用意すると、髪の毛を拭きながら、

「殿下、陛下への謁見で御座いますので、くれぐれも粗相のないようお願い致します」
と念押しした。

私は謁見の間に私は着いていく事が出来ない。不安で仕方ない。

「あんた、私を誰だと思ってるの?アルティア王国の王女なのよ?」
知ってますよ。
だからと言って安心出来る要素は1つもない。


私は1人で殿下の準備を整えていく。
はっきり言って重労働だ。

殿下が獣人の侍女を断るかもしれない…とは考えていたし、この結果は想定の範囲内だが…やっぱり大変!


なんとか時間内に殿下を仕上げる事に成功した。

殿下はゴテゴテしたドレスが好きだが、なるべくその中でも上品に見える物を選んだのだが…

「なんで、こんな地味なやつを選んだのよ!」
…地味ではないです。華美ではないだけで。

「陛下への謁見ですので、なるべく上品に見える物が宜しいかと。
それと、香水は仄かに香る程度でなければ。獣人の方々は私達より鼻が効くと言いますから」
と私が言うと、殿下は不服そうだ。

「殿下、『郷に入っては郷に従え』です」

「何それ?」
…そっか、意味を知らなかったか…殿下…

「私達はベルガ王国に来たのですから、ベルガ王国のやり方に従うべきだと思いますので」

「どうして私が遠慮して生きなきゃいけないのよ!私はアルティアの王女なのよ!」

「アルティアの王族である誇りを失えと言っているのではございません。
ただ、これからは、殿下はこのベルガ王国の王族と連なる者となられるのです。そこはご理解下さいませ」

…ベルガ王国はどんどんとたくさんの国を支配下、或いは属国にし、勢力を広げている。
はっきりいえば、この大陸で1番力を持つ国だ。
アルティアよりも遥かに大きい。
本来なら、その国の王族に嫁ぐ権利は他の国からすれば、喉から手が出る程欲しい物だろうに。

そういえば、この国の王太子殿下には、婚約者がまだ居なかったのではなかったか?

まぁ、色んな国の王女や、この国の高位貴族のご令嬢なんかが、その座を虎視眈々と狙っている事だろうが。

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