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その14
しおりを挟む「ちょっと!私を馬車に1人きりにするなんて、何を考えているのよ!
あんたなんて、クビよ!クビ!」
馬車の扉を開けて開口一番に言われた事はこれだ。
しかし、これは、私とて反省している。
流石に、2時間半も主を1人きりにするなど、専属侍女としては失格だ。
反省しているが、それが顔に出ていないだけだ。能面なんで。
「大変申し訳ありませんでした。返す言葉も御座いません。
しかし、せめてクビにするなら、王城に着いてからにして下さい。
それまでは、殿下のお世話をする者が、今は私しかおりませんので」
と言って私は頭を下げた。
殿下だって、その事は重々承知しているのだ。
だが、怒りをぶつける相手も今は私しか居ない。
殿下は何も言わないが、私がお水や、軽食を用意すると、不貞腐れながらも完食した。
休憩場所を出発してからも、殿下の愚痴は止まらない。
「もう、いや。こんな所に居たくない!」
だの「マークを呼んで!」(ロイド卿とは既に国境でお別れしているのだが)だの、「腰が痛いから、腰を揉め」だの、忙しい。
流石に疲れたのか、眠ってくれた時には、神に感謝した。
今まで、蝶よ花よと育てられ、甘やかされ、我が儘放題。
それが大人の手のひら返しにあったのだから、人間不信に陥ってもおかしくない。
しかし、彼女はただの貴族ではない。王族なのだから、例え人質のような婚姻(今回は違うが)であっても、粛々と受け入れなければならない立場なのだ。
まぁ、それすらも教えてなかった、両陛下の責任と言えば責任であろう。
私は馬車の窓から、外を見る。
ここら辺はベルガ王国の辺境の地であろうのに、道は綺麗に整備され、なかなか栄えているようだ。
ベルガ王国は獣人の国という事もあって、独特の文化を持ち、その戦闘力の高さで、他の国を制圧、支配下に置いてきた。
我がアルティア王国は、鉱山を多数持つが、肥沃な土地が少なく食物の大半を輸入に頼っている。
数世代前になるが、その時の我がアルティアの王と、ベルガ王国の王は友人関係であったらしい。
なので、支配下に置かれる事なく、お互いがお互いを補い合う、貿易相手国だ。
もし、この関係が崩れ、ベルガ王国がアルティアに攻め入れば、アルティアは一溜りもないだろう。
特に今のアルティア国王、フランシスコ陛下は穏和で、平和主義だ。
なので、この前のドルーアとの小競り合いも、予想以上に長引いた。
今の王太子殿下が、ベルガ王国へ援軍を頼まなければ、その犠牲は兵士だけでなく、領地、領民にも及んでいたであろう。
今回の事で、自国の軍事力に不安を持った王太子殿下が、軍事同盟国としてベルガ王国の力を欲した事が、今回の婚姻のきっかけでもある。
ベルガ王国にとっては然程利益がないように思うが、鉱物の関税の引き下げは、ベルガ王国にとっても有り難かったようだ。
さて、この話、私は独自の勉強で学ぶに至ったが、ミシェル殿下がこの事をどこまで理解しているかは、甚だ疑問である。
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