お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶

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第157話

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「…………故意って事?」
私も小声で話す為に少しテオの方へ身を乗り出した。

「証拠はこれからですが恐らく。とにかく此処ではない何処かでお話しますね。まず……」

とテオが話し始めた時、ノックの音が聞こえ、私達は話すのを止めた。


「奥様!ご無事で何よりです!テオドール様も」
とギルバートが顔を見せた。


「ギルバートさん、どうでしたか?」
とテオが尋ねる。

「ビルはずっと家に居ました……というより寝てましたよ、私が起こすまで。彼ではありません」
と話すギルバートに、私は、

「話が聞けないのはもどかしいわね」
とため息をついた。

するとまたノックの音が聞こえ、今度はソニアが顔を覗かせた。

「護衛の手当ても終わりました。火も鎮火しましたが、家の殆どが焼け落ちてしまいましたね」
と言うソニアに、

「他の人達に怪我はない?消火活動をしてくれた者とか」
と私が尋ねると、

「殆どの者は無事です。最前線で消火していたテリーが手に少し火傷を負ったぐらいですね」
と言うソニアに、ギルバートとテオが顔を見合わせた。

その様子に私は、もしかすると私は殺されかけたのかもしれないと思い至った。

結局、夜が明けるまで寮のメグの部屋を借りて休む事になったが、流石に眠れそうにない。
テオは私の部屋を見張ると言っていたので、私はテオを部屋に招き入れた。

「眠れませんか?」
テオは寝台の横の椅子に腰掛け私にそう尋ねた。

「うん……。ここまでの悪意を向けられた事は初めてだから。ちょっとね」

はっきりと殺意を向けられたのは初めてだ。
すると、テオは

「俺……私がここに着いて直ぐ、火の手が上がる家の中にステラ様が居ると聞いて……血の気が失せました。護衛達が家の中に入ろうとしていましたが、火の回りが早くて、家の入口付近が崩れて……。水を汲んで来るのにも距離があって。家の裏に回ったら大きな木があったんで、気づいたら夢中で登っていました」

「テオが木登りが得意なんて知らなかったわ」

「店が終わっても家に帰るのが嫌で、そんな時には木に登って、日が沈むのを見てたんです」

子どもの頃の話をするテオはいつも少し寂しそうだ。

「そうだ。私、まだテオにお礼を言ってなかったわね。私を助けてくれてありがとう。貴方のお陰でこうして元気だわ」
と私が微笑むと、テオは

「貴女を失う事にならず本当に良かった」
と私の包帯をしていない方の手をそっと握る。
その手は少しだけ震えていた。
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