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第133話
しおりを挟む「『たら・れば』を話しても仕方ありませんが、私も悔しく思っております。あの時、もう少し強くお止めしていれば……そう思った事は1度や2度ではありません。
しかし、恋というのは人を豊かにも、愚かにも変えてしまうものなのだと、経験はないながらも感じました」
と言う私に、
「私にもそんな経験はない。王妃とは完全なる政略結婚だしな。もしかすると私は羨ましかったのかもしれないなぁ、ディーンが」
と陛下は言った。すると、隣の殿下から
「息子の前で話す会話ではないでしょう。まぁ、妃陛下との関係は私から見ても形だけと良く分かっておりますが」
と苦笑交じりに諌められた。
王妃陛下が苛烈な性格であるのは、貴族だけでなく、国民までもが広く知る事実。しかし、私が口を挟むような事柄でもないので、黙っておく事にした。
「お前は良いさ。好きな相手と結婚出来たんだ。私から見ればお前だって羨ましいさ」
と口を尖らせる陛下に私はつい笑ってしまった。
陛下とは今まで形式ばった挨拶ぐらいしかして来なかったが、なかなかに砕けた人物の様で驚いた。
笑顔を見せた私に、殿下は、
「私はそのアイリスと言う女性に面識はありませんが、こんな素晴らしい伴侶が居て、何故他の女性に懸想するのか……理解に苦しみます」
と眉を潜めた。すると陛下も同調する様に、
「私もそう思うよ。王命であったかもしれんが、よくこんな聡明な女性を選んだものだと感心している。アイリスについては話しか聞いておらんが、言葉を選ばずに言うのであれば、我が儘な女であるなと感じていたがな」
2人とも褒めすぎだ。……まぁ、容姿を褒められなかったのは納得だが。そこの所は2人とも正直だと言える。
「時に女性は我が儘である方が可愛らしいのではありませんか?殿方の気持ちを知る術のない私には解りかねますが」
と私が言えば、2人は口を揃えて、
「「我が儘な女性に付き合うのはほとほと疲れるよ」」
と首を振った。……王妃陛下に2人とも余程振り回されてきたらしい事が伺える。
和やかな雰囲気の中、私達の非公式の面会は終了した。
私は最後に陛下にお願いをした。
「陛下。大変差し出がましい申し出だとは心得ているのですが……」
と切り出した私の願いに陛下は少し困った顔をしながらも、
「……許可しよう」
と私の申し出を受け入れてくれた。
部屋の外へ出るとムスカが待っていた。
「待たせたわね。さぁ、行きましょうか」
と声を掛ける私に、
「私はまた馬ですけどね」
と少しトゲのある言い方のムスカに私は苦笑した。
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