お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶

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第123話

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アイリスさんは続ける。私は黙って聞いていた。

「でも両親が事故で亡くなって、私は王都へ。ディーンから聞いていたから王都には憧れていたの。トミー叔父さんは母と仲が良かったからか、私の事も大切にしてくれて、領地では着たことのない様な可愛いワンピースを着て、素敵なカフェにも行ったわ。私は幸せだって思えてたの……彼女に会うまで」
アイリスさんの言う『彼女』
これは間違いなくドナ様の事だろう。

「上には上が居るのね。平民では逆立ちしても敵わない……彼女は私に自慢ばっかり。本当に嫌な女だったわ。体が弱いって言ったって死ぬ様な病気でもないくせに。だからネックレスを壊したって言われた時も、正直『ざまぁーみろ』って思ったわ。見せびらかすあんたが悪いのよって。でも、その後が最悪だったけど」
と言ったアイリスさんの顔はいつもの可愛らしさは皆無だった。

「カンデラ商会への借金の事ね」

「トミー叔父さんはまだ17歳だった私に借金を負わせるのは無理って言ってたのに、コビーの奴……あいつが余計な事を言ったせいで私は大きな借金を背負う事になった。
そのうちトミー叔父さんが病気になって、あの家に居辛くなって、18になって直ぐに私は領地に帰った。
……そこで思いついたの。そうだ!私にはディーンが居るじゃない!って」
と良いこと思いついた!みたいな顔で公爵様の事を語るアイリスさんに不快感が湧いた。

「それはどういう意味で?」
と私が問えば、

「え?ディーンが私に好意を持っていたのは分かっていたから、彼は貴族だしお金持ちでしょう?なら、借金払って貰えないかお願いしようかなーって」
とあっけらかんというアイリスさんに私は目を丸くした。

子どもの頃の公爵様との思い出を話す時には、あんなに優しい顔をしてたのに、アイリスさんって……二重人格か何かなの?まるで別人なんてすけど?

「でもそれより『ディーンと結婚したら私も貴族になれるんじゃない?』って思ったの。それに子どもの頃はよく分かってなかったけど、ディーンは公爵でしょう?あの女より上になれるって思ったら楽しくなってきちゃって」
と嬉しそうに言うアイリスさんを私は知らない人を見るような目で眺めた。
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