お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶

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第108話

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「では、この絵と手紙が王太后様の支えに?」

「そうね。それからは辛いことがあればこの絵を眺めた。それから半年程して、私はカルロスを妊娠したの」
王太后様はカルロス陛下の後、2人の娘を生んでいる。

「私が妊娠した当初、前国王の……主人の子ではないのではないかとの噂が流れたわ」

「そんなっ!何て事を!?」

「仕方ないわ。ずっと子に恵まれなかった王妃が妊娠したなんて……あの2人には信じられなかったのでしょう」
との言葉に、私はその噂を流した犯人に気づいた。

「では……御側妃が?」

「ええ。それが分かって2人は王宮を去った。……表面上はね。本当は追放されたの」
……そう言えば、2人の側妃の生家はどちらも伯爵位から男爵位と格下げになっている事を思い出した。

「カルロスという後継ぎを産んだ事で私の立場は大きく変わった。
王宮でも居場所を見つける事が出来て、随分と暮らしやすくなったわ。
……前陛下との関係はあまり改善されなかったけど、子どもは可愛かったし、ある程度は幸せになれた。……ポールのお陰よ」

「1つ、質問をしてもよろしいですか?」
私は疑問に感じた事を尋ねる事にした。

「もちろんよ。何?」

「ポール・ダンカン……という名は画家としてのお名前なのですか?」

「彼は私がこの国へ嫁いだ後……自ら家を出たの。嫡男だったのに……私も驚いたわ彼は公爵という未来を捨て、画家として生きる事を選んだ」

その理由。……今、私が推理したとしても何の意味もない事だろうし、口に出しても王太后様が辛く思うだけだ。
これは私の心に留めておこう。
答え合わせをする事も出来ないのだから……この世にもうポール・ダンカンはいない。

「前国王陛下が亡くなって、私は王妃という重圧から解放された。やはり私には荷が重かったのよ。正直、ホッとしたわ。
それから、ポールが何処に居るのか……調べようと考えた事もあったけれど、止めたの。彼がそれを望んでいるとは思えなかったし。
でも、ポール・ダンカンという画家が居ると風の便りで聞いた時は、是非その人物の絵を見てみたいと願ったわ。……間違いなく、ポールの絵だった」

「それでも……彼を捜す事はしなかったのですね」

「ええ。そうね。だって会ったとしてどうしたら良いの?この立場では迷惑をかけるだけだわ。
だから私は……何もしなかった。彼が亡くなったと聞くまでは」
そう言った王太后様の目には光るものがあった。
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