お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶

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第83話

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「……どう尋ねるのが良いのか悩んだのですけど……今後、オーネット公爵は誰にお譲りになるのです?」
とパトリシア様は少し尋ね難そうに私にそう訊いた。

私と公爵様の間に子がない事は周知の事実。
別に私がその質問で傷つく事はないのだが、気を遣わせたようだ。

「……血縁の者に継がせようと考えております。主人も後継については常々考えておりましたから、私はその遺志を継ぐだけですわ」
と私が微笑めば、

「ではどなたか養子を迎えられる……そういう事ですのね?」
とパトリシア様は頷いた。

『親戚から』とは言えず、言葉を濁したが、そこをどう捉えるかはパトリシア様次第だ。私は嘘は言っていない。

「ええ。そうなりますね」
と私は答えた後、話題を変えるように、

「そういえば!もう少しでパトリシア様のお誕生日でいらっしゃいますね」
と私が明るくそう言うと、パトリシア様は一気沈みこんだ。あれ?この話題、何か不味かったかしら?

「こんなに……自分の誕生日が憂鬱であった事はありません」
と沈んだ声でパトリシア様はそう言った。何かあったのだろうか?

「どうかなさいましたか?」

「ステラ様……私、誕生日を過ぎたら殿下に側妃を迎えていただこうと思っていますの」

「側妃……でございますか?」

これまで何度も王太子殿下は周りの『側妃を』という声をねじ伏せてきた。それが……何故?
いや……何故ではないか。きっと、パトリシア様がその声に耐えられなくなってきたのだ。

「次の誕生日で私はもう24になるわ。殿下と結婚して6年。私は十分大切にしていただいた。でも……殿下に子を抱かせてあげる事は出来そうにないもの」
とパトリシアは綺麗な瞳から大粒の涙を溢した。

私も何と慰めたら良いのかわからない。
私と公爵様は『白い結婚』故に子がない。それはオーネット公爵家の者しか知らない事だが、私達の中ではそれについて苦言を呈する者も、嫌味を言う者もいない。

しかしパトリシア様は違う。王太子殿下と愛しあっているのに、御子を授かる事が出来ずにいるのだ。

不妊の原因は女性にあると考えられがちだが、原因が男性にある場合も十分に考えられる。
側妃を持てば御子が授かるかと言えば、そうではないのだが、こればかりは、やってみなくてはわからない。

王太子殿下はパトリシア様を悲しませたくはないというお気持ちから側妃を断っておいでなのだろう。

しかし、2人は王族。この問題は気持ちだけで割りきれるものでない事もまた事実だ。
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