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第58話
しおりを挟む『親愛なる ディーン
明日はテオドールのお誕生日よ。ちゃんと覚えてくれてるかしら?
お店があんな事になってしまって、私、不安でたまらないの。
どうか、私を1人にしないでね。
あなたは私の信頼を裏切った。それは許してあげてるけど、2度目はないわ。これ以上私を失望させないで。じゃなきゃ、私、辛くて悲しくて、生きていく気力がなくなってしまうもの。ちゃんとあなたの誠意を見せて欲しいの。
テオドールもきっとあなたに会えるのを楽しみにしてる。
ね?絶対よ?
あなたのアイリスより』
私はくしゃくしゃになった紙をゆっくりと丁寧に伸ばすと、そこに書かれていた手紙……アイリスさんから公爵様へ宛てて書かれた物に間違いない……と思われる物を読んだ。
察するに、この手紙は今年のテオの誕生日前日、或いはこの屋敷に届く日を逆算して書かれた物……という事だろう。
若干のインクの滲みがあるという事は領地の被害を伝える早馬に持たせた可能性が高い。それならば馬が領地を出る時は雨だ。
では次。この手紙を読んだ公爵様はどう思ったのか。
愛する女性がどうしても会いたいと言っている。しかも……命を盾にとるような文言で。
推測に過ぎないが、この手紙が公爵様のあの無謀な行動を取らせる切っ掛けになったのではないか?
それならば、あの時の『明日では遅いのだ』という私への返事も納得出来るというものだ。
ギルバートに、あの日私が食堂へ行った後の会話について尋ねてみたいが、彼は今、領地へと赴いている。……というか、私があちらまで手が回らずにギルバートに手伝って貰っているのが主な理由だ。
それと私がどうしても気になる事があったので、それもギルバートに調べさせている。
その回答を持って帰った時にでも、この手紙の事をギルバートへ確認してみよう。
しかし……私は腹が立ってきた。
息子の誕生日ぐらい、母親1人で祝ったって良いだろう?!
そんなくだらない事で、公爵様の命が奪われてしまったのだとしたら?
私は彼女を許せるだろうか?
それにしても、手紙の中にあった『信頼を裏切った』とはどういう意味だろう?
公爵様はずっと彼女を想っていたし、大切にしてきた。
年の半分は領地へ行っていたし、テオの誕生日だって……今年以外はずっと一緒に祝ってきたのだろう。
こんな風に書かれるような裏切りなど公爵様に出来る筈がない。
それに最後の一文。『テオドールもきっとあなたに会えるのを楽しみにしてる』なんて、まるで取って付けたような言葉に思える。テオの事は二の次三の次というような……。テオの誕生日なのよね?
しかし……テオと公爵様の関係性はどういうものだったのだろうか?
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