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第20話
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「こちらにございます」
ギルバートが持ってきた大量の書類に私は目を丸くした。
昨晩の夜会の後、黙りこんで私の話を全く聞かなくなった公爵様は今朝も早くから領地へと発ったらしい。逃げたな。
「これは?」
「奥様の新しいお仕事に御座います。ご主人様からお聞きなのでは?」
聞いたと言えば聞いた。いや、命令されたと言えば良いのか?
「仕事を頼まれたのは確かだけど、内容は聞いていないわ」
「左様ですか。鉱山の産出量を記したものなのですが、ご主人様のお仕事が立て込んでおりまして、こちらまで手が回っておりません。綺麗に纏めた物をご主人様が欲していらっしゃいます」
「それで?これを私にしろ……と?」
「流石奥様。この私がみなまで言わずとも分かって下さるとは。ではよろしくお願いいたします」
とギルバートは軽く会釈をすると、さっさと部屋を出て行った。
お茶を淹れていたソニアは、
「これは……本当に今必要なお仕事なのですか?産出量はきちんと記載されているのですよね?わざわざそれを纏め直す必要が?」
と眉をひそめた。
「別に必要ないのよ。私をここに縛り付ける為の口実よ。私が外で色々とやっているのが気に入らないだけ」
と私が言えば、ソニアはますます渋い顔をした。
しかし、私は、
「仕方ないわ。ならば、びっくりするほど見易い資料にしてみせるから。じゃあ、ソニア……」
と言えば、ソニアは心得たという様に、
「はい。私は部屋を出ておりますので、ご用の際にはそちらのベルを」
と言って部屋を出ていった。
私は集中したい時は1人になりたい質だ。それをソニアはちゃんと分かってくれている。
私は、
「さてと。公爵様には悪いけど、こんな嫌がらせに負けてられないわ」
と気合いを入れ直した。
私が作った資料が気に入ったのか、それとも私の行動を制限し続けたいのか、それから私は公爵様の仕事の手伝いのような事をさせられるようになった。
しかし、私はそんな事で負けたりしない。私は私でその合間を縫って、お茶会や音楽会に勤しんだ。
パトリシア様には気に入られ、皇后様のお茶会にまで招待される様になった。
私がオーネット公爵夫人として、社交界での地位を確立するのに2年を要したが、私は社交界で一目も二目も置かれる存在になったのだ。
そして公爵様の仕事を手伝う様になったからか、領地経営や鉱山についても詳しくなってしまった。
といっても、公爵様と肩を並べて仕事をしている訳ではない。
相変わらず食卓を囲む事はないし、夜会も必要最低限しか一緒に参加する事はない。
その上、顔を合わせれば大体言い争っている。決して仲良くなったわけではない。
表面上は上手くいってる様に見えるのか、結婚して時間が経つと周りからは、
「次はお子様ですね」とよく言われるようになってしまったが、こればっかりはどうにも出来ない。しかし『白い結婚』と言う言葉を自ら言いたくはなかった。私にだってプライドがある。
結婚して5年も経つ頃には、私と離縁して他のご令嬢と結婚した方が良いのではないかと言う人も少数だが現れる様になった。
しかし、そんな時は決まって公爵様は、
「私は離縁するつもりはない」
とだけ答えていた。まぁ…公爵様も『実は白い結婚なんだ』などと自分から言う事はないのだから、私が懐妊しないからといって他の女性を選ぶのはお門違いというものだろう。私には全く非がない。
ギルバートが持ってきた大量の書類に私は目を丸くした。
昨晩の夜会の後、黙りこんで私の話を全く聞かなくなった公爵様は今朝も早くから領地へと発ったらしい。逃げたな。
「これは?」
「奥様の新しいお仕事に御座います。ご主人様からお聞きなのでは?」
聞いたと言えば聞いた。いや、命令されたと言えば良いのか?
「仕事を頼まれたのは確かだけど、内容は聞いていないわ」
「左様ですか。鉱山の産出量を記したものなのですが、ご主人様のお仕事が立て込んでおりまして、こちらまで手が回っておりません。綺麗に纏めた物をご主人様が欲していらっしゃいます」
「それで?これを私にしろ……と?」
「流石奥様。この私がみなまで言わずとも分かって下さるとは。ではよろしくお願いいたします」
とギルバートは軽く会釈をすると、さっさと部屋を出て行った。
お茶を淹れていたソニアは、
「これは……本当に今必要なお仕事なのですか?産出量はきちんと記載されているのですよね?わざわざそれを纏め直す必要が?」
と眉をひそめた。
「別に必要ないのよ。私をここに縛り付ける為の口実よ。私が外で色々とやっているのが気に入らないだけ」
と私が言えば、ソニアはますます渋い顔をした。
しかし、私は、
「仕方ないわ。ならば、びっくりするほど見易い資料にしてみせるから。じゃあ、ソニア……」
と言えば、ソニアは心得たという様に、
「はい。私は部屋を出ておりますので、ご用の際にはそちらのベルを」
と言って部屋を出ていった。
私は集中したい時は1人になりたい質だ。それをソニアはちゃんと分かってくれている。
私は、
「さてと。公爵様には悪いけど、こんな嫌がらせに負けてられないわ」
と気合いを入れ直した。
私が作った資料が気に入ったのか、それとも私の行動を制限し続けたいのか、それから私は公爵様の仕事の手伝いのような事をさせられるようになった。
しかし、私はそんな事で負けたりしない。私は私でその合間を縫って、お茶会や音楽会に勤しんだ。
パトリシア様には気に入られ、皇后様のお茶会にまで招待される様になった。
私がオーネット公爵夫人として、社交界での地位を確立するのに2年を要したが、私は社交界で一目も二目も置かれる存在になったのだ。
そして公爵様の仕事を手伝う様になったからか、領地経営や鉱山についても詳しくなってしまった。
といっても、公爵様と肩を並べて仕事をしている訳ではない。
相変わらず食卓を囲む事はないし、夜会も必要最低限しか一緒に参加する事はない。
その上、顔を合わせれば大体言い争っている。決して仲良くなったわけではない。
表面上は上手くいってる様に見えるのか、結婚して時間が経つと周りからは、
「次はお子様ですね」とよく言われるようになってしまったが、こればっかりはどうにも出来ない。しかし『白い結婚』と言う言葉を自ら言いたくはなかった。私にだってプライドがある。
結婚して5年も経つ頃には、私と離縁して他のご令嬢と結婚した方が良いのではないかと言う人も少数だが現れる様になった。
しかし、そんな時は決まって公爵様は、
「私は離縁するつもりはない」
とだけ答えていた。まぁ…公爵様も『実は白い結婚なんだ』などと自分から言う事はないのだから、私が懐妊しないからといって他の女性を選ぶのはお門違いというものだろう。私には全く非がない。
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