お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶

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第7話

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私が案内されたのは、1階にある……所謂『客間』であった。

私は思わず

「ここは……?」
とソニアに尋ねてしまう。ソニアは少し困ったように、

「いえね。私もご主人様に言ったんですよ。ちゃんとね。普通夫婦の部屋というものは寝室を挟んで両隣にあるべきものなんです。もちろん、このお屋敷でもそのような仕様になっております。ご主人様のお母様……前公爵夫人が使っていたお部屋がちゃーんと存在するんです。ご主人様のお部屋の並びに。でも……ですね……」
と少し早口で捲し立てた後、最後は口ごもってしまった。
そしてため息を1つつくと、

「『あの部屋は今後も使う予定はない。それは私が結婚したとしてもだ』と言われてしまいまして……」
と諦めたようにそう言った。

言った人が誰なのか……尋ねなくても分かる。私が黙っていると、

「ご主人様の言う事はこのお屋敷では絶対ですから。私も納得しないながらも、渋々頷いたという訳です」
とソニアは大きな体が少しだけ小さくなったように、申し訳なさそうにした。

なるほど。私は公爵様から今のところ『妻』と認められていないという訳か。
……しかし、今のソニアの言葉から察するに、ずっと認めてもらえなさそうな気がするが、私はそこを丸っと無視する事にした。

「お部屋なんて、どこでも構いません」
と私が微笑むと、ソニアは少しホッとしたように見えた。
この状況はソニアの責任ではない。なんなら全てあの強面公爵のせい。

ソニアは気分を切り替えるように、

「元は客間だったかもしれませんが、ここはもうステラ様のお部屋でございます。どうぞお好きにお使い下さい!足りない物や必要な物、欲しい物が御座いましたら、このソニアになんでもお申し付け下さいね」
と私に明るく言ってくれた。

だが、私を気遣ったその優しいソニアの言葉も、あの強面公爵の前では木っ端微塵に砕け散るのだが、それはまだ少し後のお話。

湯浴みと着替えを終えた私は、夕食の為食堂へと案内された。

だだっ広い食堂に私1人でポツンと座る。
実家ではこの半分くらいの食堂に、両親、兄、私。姉達が嫁ぐ前であればその姉2人も一緒になって食卓を囲んでいた。狭いながらも楽しい我が家。そこには温かな家族団らんがあった。

しかし今は私1人。食事はどれも美味しかったのだが、何とも味気ない夕食を私は終えた。

「私……此処に馴染めるのかしら」
部屋で1人呟いてみる。
行き遅れと後ろ指をさされたくなくて、そればかりを考えていた時期もあった。
公爵家との縁談なんて望んだ事も考えた事もなかったのだが、こうしていざ『貴女は公爵夫人になるんですよ』と言われた所で、現実味がない。……もしや長い夢でも見ているのかしら?
もし夢なら……私はどちらを望むのだろう。夢から覚めて実家で肩身の狭い思いをするのか、はたまた夢なら夢のまま、この公爵家で肩身の狭い思いをするのか……。どちらを選んでも、あまり楽しそうではないな……と思う。
そんな事を考えながら、私はオーネット家での初日を終えたのだった。

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