上 下
22 / 43

文化祭・その④

しおりを挟む
文化祭2日目。
私の給仕は午後が担当だ。
昨日が予想以上に盛況だったので、色々と不足した分の買い出しに来ている。

「ねぇ、森田くん。生徒会長が買い出しに着いてきて良いわけ?
学校離れるの不味いんじゃない?」

「ん?まぁ、そんな時間かかる訳じゃないし、花音1人じゃ荷物全部は持てないだろ?
俺もクラスの事、全然ノータッチだったから、少しはやっとかないとな」

「爽太くんが着いてきてくれるって言ってたから、別に1人じゃなかったんだけど。まぁ、さっさと買って帰ればいいか!
森田くんも、少しはクラスに貢献したいって事だよね。
じゃあ、ちゃっちゃと終わらせよう」

私達は必要な物をメモを見ながら買い物カゴへ入れていく。

「…いつから爽太の事名前で呼んでんの?」

「ん?あぁ。昨日から。呼んでくれって言われたし」

「そういえば、昨日、一緒に文化祭まわってたんだってな?結構、目立ってたみたいだぞ」

「え?マジで?仕方ないかぁ…爽太くん目立つもんね」

「……付き合ってんの?」

「はぁ?んな訳ないじゃん。
爽太くんとまともに話すようになったのも、この文化祭が初めてだよ」

「…のわりに仲良いな」

「うーん。仲良しの定義が分かんないけど、普通じゃない?
それよりは森田くんとの方がよく喋ってると思うけど?」

「いや、それは生徒会だからだろ?」

「確かにそうだけど、それを言うなら爽太くんだって同じクラスだからだよ。
そこに大した違いはないと思うけど?
そんな事より、ホラ、さっさと会計に行くよ!」

「へいへい。悪かったな、変な事聞いて」

「別に。どうでもいいよ」

「…なんか、花音って変わってんな」

「何?悪口?」

「違うよ。普通、爽太みたいなのを皆好きじゃん。女子は」

「カッコいいなとは思うけど、好きかどうかは別じゃない?
別に私が普通と思われなくても良いけどさ。ってか普通ってなんだろうね?」

…まず乙女ゲームに転生している、この状況が普通じゃないしね!

「ごめん。なんかそこまで深く考えてなかったわ。
どうせ花音もカッコいい男が好きなんだろうなって単純に考えただけ。
まぁ、嫉妬だ、嫉妬」

「嫉妬?何で?」

「いや、何となく、花音と1番仲良いのって俺かな~なんて思ってたから」

「だから、さっき私言ったじゃん。森田くんとの方がよく喋るって。
自分が否定したくせに」

「ごめん、ごめん。
じゃあさ、俺の事『和也』って呼んでよ」

「え?嫌だよ」
心の中では『森田』って呼んでるけどな!

「何でだよ!いいじゃん!」

「なんとなく嫌。ちなみに誤解のないように言っとくと、私だってイケメンが好きな普通の女の子だから!」

「都合良い時だけ、普通ぶんなよ!しかも俺がイケメンじゃないみたいじゃん!」

「……イケメンだと思ってるの?」

「いや、なんでそこで可哀想な子を見るような目で俺を見るんだよ!」
…だって森田くんはモブだもん。攻略対象にはなれないんだよ…残念ながら

「あーもう!わかったよ!イケメンじゃなくて悪かったな!」

「アハハ。冗談だって。イケメン…だよ…見る人によっては」

「そのフォローが1番傷つくわ!」

私達はワイワイしながら買い物を済ませ学園に帰る。
まぁ、攻略対象じゃない分、森田くんと居るのは気が楽なのは確かだった。



2日目もうちのカフェは大盛況。
ちなみに爽太くんは学園の王子様、お姫様コンテスト(ゲームの中でもこんなイベントあったのかな?)で王子様に選ばれてた。
流石、メインヒーロー。


夕方になり、校庭では後夜祭が始まった。
私はその様子を暗い生徒会室の窓から見下ろす。

結局、生徒会で、後夜祭の準備があって、カフェは最後までは出来なかった。
こうやって後夜祭が始まれば、生徒会の仕事も一段落だ。

生徒会室の扉が開く。

「…あれ?坂崎さん?
ごめん、暗かったから、誰も居ないのかと思ってた。
後夜祭参加しないの?」

振り向くと本郷先輩が居た。
久しぶりの本郷先輩に胸が高鳴る。

「はい。なんだか少し疲れちゃって。
こうやって皆が楽しそうにしてるのを見てるのも良いなって」

「…電気も点けずに?」

「電気点けちゃうと、外が見えにくくなるから…」

「そっか。じゃあ点けない方が良いね」

そう言って、先輩は私が腰かけてる窓際の椅子に近付いてきた。

ちょっと!これって良い雰囲気じゃない?

「先輩は後夜祭、参加しないんですか?」

「僕も少し疲れちゃってね」

3年生は文化祭は自由参加だ。受験で忙しいから

「受験勉強、大変なんですか?」

受験の話はタブーかな?とは思ったが、今は他の話題が見つからなかった。

「そうだね。でも勉強ばっかりでも息が詰まるから、適当に息抜きしてるよ」

良かった…雰囲気は悪くない

「そうですよね。メリハリは必要ですね」

「ふふっ。そうだね。
坂崎さんは生徒会どう?森田が困らせてるんじゃない?」

「正直言うと、結構大変だなって思ってます。
でも、やってなかったら経験出来てない事も多いと思うので」

「そうか。何事も経験って事だね。
坂崎さんは卒業後ってどうするの?大学進学?」

…正直、何も考えてなかった。
だってこのゲームは卒業式の日にエンディングを迎えるのだから。
その後ってどうなるんだろ?ここはゲームであってゲームじゃない。
どんなエンディングを迎える事になっても、私の人生はここで続いていくのだろうか?
ならば、今後の事も考えなければならない。
…え?パラ上げの他に受験勉強もしなきゃダメなの?私は目の前が真っ暗になった。

「…坂崎さん?大丈夫?」
私は先輩の声にハッとする

「あ、すみません。ちょっとボーッとしちゃって。卒業後の事…何も考えてなくて」

「そうか。坂崎さんは夢とかあるの?」

夢?夢は本郷先輩とハッピーエンドを迎える事だけど。
ハッピーエンドを迎えた後は?本郷先輩と付き合って…その後は?

「…夢は…お嫁さん?ですかね?」

「え?そうなの?お嫁さん?」

「いや…いずれって事で。アハハ。子どもみたいでしたね」

「いや、いいんじゃない?お嫁さん。
…坂崎さんは好きな人いるの?」

…貴方です!って言えたらどんなに良いか。でも、こんなタイミングで告白なんて、乙女ゲームとしては絶対ダメだよね?

「いえ。今は居ないですかね」

「そっか…森田じゃないんだ?」


はぁ?!また何故森田?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

侯爵令嬢の置き土産

ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。 「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。

そのハッピーエンドに物申します!

あや乃
恋愛
社畜OLだった私は過労死後、ガチ恋相手のいる乙女ゲームに推しキャラ、悪役令嬢として異世界転生した。 でも何だか様子が変……何と私が前世を思い出したのは大好きな第一王子が断罪されるざまあの真っ最中!  そんなことはさせない! ここから私がざまあをひっくり返して見せる!  と、転生ほやほやの悪役令嬢が奮闘する(でも裏では王子も相当頑張っていた)お話。 ※「小説家になろう」さまにも掲載中 初投稿作品です。よろしくお願いします!

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...