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第64話
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「どうした?何かあったのか?」
陛下が私の頬の涙を指で拭った。
「いえ……少し疲れただけです」
全てをぶちまけてしまいたい。しかし私はノアの裏切りを陛下に言う事は出来なかった。
「お前が元気がないのは珍しいな」
陛下はほんの少し口角を上げたが、まだ心配そうな表情で私を見ていた。
私は自分自身をも騙す様に微笑んで、
「もう!私だって、いつもいつも元気な訳じゃないですよ!」
そう言って膨れてみせた。
そんな私を見て、陛下は何故か辛そうな顔をした。
「言いたくない事は言わなくて良い。無理はするな」
私の心を見透かされた様で、私は俯いた。涙が溢れる。
私が落ち着くのを、陛下は黙って見守ってくれた。
そして陛下は徐ろに私に言った。
「離縁を……離縁をしよう」
私は勢いよく顔を上げた。頬はまだ濡れたままだ。
「り……えん?」
「そうだ。お前は巻き込まれただけだ。自由になれば良い」
「で、でも……」
私は突然の陛下の申し出に戸惑う。離縁?最近、歴史の本を読むようになって、王族の成り立ちや、この国の法を学ぶ機会が増えた。私の記憶が確かなら王族の離縁は認められていなかったのではなかっただろうか?
「悪かったな……私達の我儘に付き合わせた。貴族が嫌われる理由がよく分かる」
「でも、王族の離縁は認められていないのでは?」
私がそれを知っている事を意外に思ったのか、陛下は少し驚いた顔をした。
「そうだ……だから今直ぐという訳にはいかない。議会の承認が必要だ。だからもう少し辛抱してくれ」
そう言った陛下は私の頭をポンポンと撫でると、バスケットを差し出して、
「もう少し食べると良い」
と微笑んだ。
私はまた一つ、菓子を手に取る。
「砂糖は品薄だと聞きました……」
「よく知っているな。確かに。元々我が国では砂糖の生産は少ない」
「かつての最大の輸入先は……メドレス王国」
「ほう……よく勉強している。その通りだ。だが、現状はお前の知る通り。メドレスからの輸入は止まり、砂糖を産業の要としている他の国とうちの関係もよろしくない。自国の生産に頼るしかないが、今の我が国の状況は厳しい」
「生産者が反乱軍に加担している者も多くなっています」
「そうだな。我が国の未来は……いや、私が消え去れば問題ないのかもしれない」
私はそう言った陛下の手を握って首を横に振った。
「難しい事は私には分かりませんが……これからこの国が変われば良いのではないですか?支配者が代わる事だけが、この国の未来を明るくする術ですか?」
私の言葉に陛下はとても悲しそうな顔をして、一言。
「それが可能なのは私ではない……」
と震える声で小さく呟いた。
陛下が私の頬の涙を指で拭った。
「いえ……少し疲れただけです」
全てをぶちまけてしまいたい。しかし私はノアの裏切りを陛下に言う事は出来なかった。
「お前が元気がないのは珍しいな」
陛下はほんの少し口角を上げたが、まだ心配そうな表情で私を見ていた。
私は自分自身をも騙す様に微笑んで、
「もう!私だって、いつもいつも元気な訳じゃないですよ!」
そう言って膨れてみせた。
そんな私を見て、陛下は何故か辛そうな顔をした。
「言いたくない事は言わなくて良い。無理はするな」
私の心を見透かされた様で、私は俯いた。涙が溢れる。
私が落ち着くのを、陛下は黙って見守ってくれた。
そして陛下は徐ろに私に言った。
「離縁を……離縁をしよう」
私は勢いよく顔を上げた。頬はまだ濡れたままだ。
「り……えん?」
「そうだ。お前は巻き込まれただけだ。自由になれば良い」
「で、でも……」
私は突然の陛下の申し出に戸惑う。離縁?最近、歴史の本を読むようになって、王族の成り立ちや、この国の法を学ぶ機会が増えた。私の記憶が確かなら王族の離縁は認められていなかったのではなかっただろうか?
「悪かったな……私達の我儘に付き合わせた。貴族が嫌われる理由がよく分かる」
「でも、王族の離縁は認められていないのでは?」
私がそれを知っている事を意外に思ったのか、陛下は少し驚いた顔をした。
「そうだ……だから今直ぐという訳にはいかない。議会の承認が必要だ。だからもう少し辛抱してくれ」
そう言った陛下は私の頭をポンポンと撫でると、バスケットを差し出して、
「もう少し食べると良い」
と微笑んだ。
私はまた一つ、菓子を手に取る。
「砂糖は品薄だと聞きました……」
「よく知っているな。確かに。元々我が国では砂糖の生産は少ない」
「かつての最大の輸入先は……メドレス王国」
「ほう……よく勉強している。その通りだ。だが、現状はお前の知る通り。メドレスからの輸入は止まり、砂糖を産業の要としている他の国とうちの関係もよろしくない。自国の生産に頼るしかないが、今の我が国の状況は厳しい」
「生産者が反乱軍に加担している者も多くなっています」
「そうだな。我が国の未来は……いや、私が消え去れば問題ないのかもしれない」
私はそう言った陛下の手を握って首を横に振った。
「難しい事は私には分かりませんが……これからこの国が変われば良いのではないですか?支配者が代わる事だけが、この国の未来を明るくする術ですか?」
私の言葉に陛下はとても悲しそうな顔をして、一言。
「それが可能なのは私ではない……」
と震える声で小さく呟いた。
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