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番外編

番外編・その32

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「ご懐妊ですよ」

私はユニ先生の言葉に瞬きを繰り返す。

「妊娠…してるの?私」
私があまりに唖然としてるので、

「本当に…。何で今まで気づかないんですかね。もう安定期に入ってますよ。
もう少しすればお腹も出てきます。普通はもっと早く気づくもんですけどね」
とユニ先生は腰に手を当てながら、呆れるように私に言った。

「え?じゃあ、もう結構経ってる感じ?」

「ですね。あと5ヶ月もしないぐらいで生まれますよ」

ビックリだ。…確かにさっき最終月経を訊かれて『あれ?来てないんじゃ?』とは思ったけど!
最近忙し過ぎて、自分の体の変化に全く気づいていなかった。

「私、全く意識していなかったから、何も気にせず生活してたんだけど、赤ちゃん大丈夫なのかしら?」
私はいきなり不安になった。

食べちゃダメな物とか、やっちゃダメな事とか…してないわよね?

「私の見立てでは大丈夫だと思いますよ。お母さんに似て、強い赤ちゃんですこと」
とユニ先生はからかうように笑った。


私は信じられないように自分のお腹を見る。

この中に赤ちゃん?本当に?

「先生、これから気を付けた方が良い事ってある?」
と私が訊けば、

「今まで気をつけて欲しかった事なら山ほどありますけどね。それは今さらですから。
体に良くない食べ物は書き出しておきますから、料理長にでも渡して下さい。
これから気をつける事はただ1つ。仕事のし過ぎに注意して下さい!あんまり無理はしない事。
きちんと適度に休養して下さいね。
クロエ様はただでさえ働き過ぎですから。で、赤ちゃんのお父さんには?」

「マルコは今、隣国に行ってるの。支店でトラブルが起きて…でも、それも解決したからと、もうこちらに向かってるの。
多分…あと3日もすれば帰って来るわ」

「そうですか。きっと喜ぶでしょうね」
と笑顔になるユニ先生。

私はやっと少し実感が沸いて、嬉しくなってきた。自然と笑顔になる。

「喜んでくれるといいな」
と私は呟いた。早く伝えたい。

マルコ様に伝えるまで、皆には黙っていよう。

そう思っていたのに…。

「クロエ、おめでとう!」
と仕事に戻った私に笑顔満面で近づいてきたかと思うと、私をそっと抱き締める陛下。


…何故?


私は陛下を押し戻し、その腕から逃れると、

「何故陛下がもうご存知なのです?」
と不満気に訊ねた。

「だって、クロエの体調が悪いと聞いて心配だったんだ。…ユニ先生の助手に無理矢理訊いた」
と陛下は少しばつが悪そうに答えた。

スパイが居たようだ。しかし、陛下の気持ちも嬉しく思う。

「もう…。仕方ないですね。ここは許して差し上げますわ。…改めて…ありがとうございます。陛下」
と私が笑うと、

「良かった。怒られるかなぁとは思ったんだが、居ても立ってもいられなくて。
しかし、クロエ、これからは仕事はセーブするんだ。ここの仕事は休んで良いからな。まずは体を大切にしなければ。
あぁ!立ちっぱなしは良くない。さぁ、座って、座って」
と私の手を引いて椅子に座らせると、陛下は満足そうに頷いた。

「陛下…。そんな嬉しそうな顔をしないで下さいませ」
自分の子どもでもないのに、何故か陛下は嬉しそうだ。

「嬉しいさ!クロエの子どもだ。相手が誰だって、クロエの子どもである事に変わりはない。男かな?女かな?あぁ…楽しみだな」
と陛下はそわそわし始めた。

私はそれを見て思わず吹き出してしまった。
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