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番外編
番外編・その18 sideマルコ
しおりを挟む〈マルコ視点〉
「何の話です?」
俺は言われた事の意味を理解できず、聞き返していた。
「クロエがオーヴェル侯爵になっても、初めのうちは棘の道だ。
反王妃派の貴族はここぞとばかりにオーヴェル侯爵家の排除に動き始めるだろう。
クロエは聡い。その状況でも負ける事なく、自分の責任を果たすだろうが、彼女を守る者が必要だ。そこで…お前だ。
どうせ、クロエが離宮へ引っ込むと決断してもお前はくっついて行くつもりだったんだろう?」
と陛下に質問され、
「それは…もちろんです。私はクロエ様個人の専属護衛騎士。王妃の騎士ではありませんので。
ですが…先程のお話だと…私がお守りするというのは…その…騎士としての努め以上の物を求められている…と、そう解釈すればよろしいのでしょうか?」
と確認するように質問で返した。
「まぁ、回りくどい言い方をすればそうだ。だがな、これは命令ではない。
人の心をどうこうする事など不可能だからな。だから無理に…とも言わないし、騎士としてでも良いんだ。クロエを守って欲しい」
と陛下ははっきりと俺の目を見て言った。
騎士として一生守っていく覚悟はあった。
自分の命に代えてでも守りたい人なんて、彼女しかいない。
しかし…
「私はしがない伯爵家の三男です。オーヴェル侯爵家にとって何の旨味もありません」
と俺が答えると、陛下は、
「クロエはそんな事を気にするような女性ではないと思うがな。
まぁ…別に結婚しろとは言わないさ。守ってくれたら良いんだ」
と少し遠くを見るように言った。
正直、あの時までクロエと自分が共に歩いていく未来など考えた事もなかった。
陛下の隣で美しく微笑む彼女を、眩しい存在だと思いながら、一生守っていく。それが自分の役割だと思っていた。
…もし彼女が俺との未来を選んでくれるとしたら?
だが、自分の気持ちを彼女に伝えて、嫌がられたりしたら?
嫌われる可能性だってあるし、主に恋心を抱いていたなど、気持ち悪いと思われるかもしれない。
答えを聞くのが怖い。
しかし…万が一…俺の気持ちを受け入れてくれたとしたら?
俺が今まで考えても考えてこなかったふりをして、自分の心を誤魔化してきた夢が…現実になるとしたら?
俺がそう考えていると、宰相は、
「言っとくが、これはあくまでもオーヴェル侯爵が妃陛下に爵位を譲ると判断した場合だけだ。
そうじゃなければ、さっきお前が言ったように、しがない伯爵家の三男などに彼女を任せる事など出来ん」
と俺にきっぱりと言うと、続けて、
「色々と悩んでいるようだが、オーヴェル侯爵がそれを拒否した場合は…」
と俺を見て言う。
「場合は…」
俺はオウム返しのようにその言葉を口にした。すると宰相は、
「その場合は、彼女は私が貰う。私はお前のように彼女から嫌われる事を恐れて、自分の気持ちを伝えないような事などしない。
欲しいものを手にいれるチャンスがあるのに、それをみすみす他の者に譲りはしないさ」
と俺を挑発するかのように言った。
いや、挑発じゃない。あの時の彼は本気だった。
いつも飄々としていて、今いち掴み所のない相手だが、クロエを想う気持ちは本物だったに違いない。
デイビット殿下の希望を叶える為に、宰相になったのは、その言動を見ていて理解出来た。
その為のパートナーとしてクロエを王妃にした事も。
クロエは彼の目的もちゃんと理解した上で、陛下と宰相と共にデイビット殿下の目指す国を造っていった。
彼は、その為に彼女を手放した事を後悔はしていないかもしれないが、消化しきれない想いを常に抱えていたのだろう。
婚約者を中々決めなかったのだって、それが原因の1つだった事は間違いない。
彼は俺とも陛下とも違う角度から、彼女を守っていた。
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