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番外編
番外編・その11
しおりを挟む応接室に残ったマルコ様は、
「直にアントン伯爵がおみえになります。後の事はアントン伯爵とお話下さい」
と元母へ向かって言った。
「な…なんでこんな事…許される訳ないわ!!」
と、元母は、誰に言う訳でもないが、ヒステリックに叫んだ。
そして、顔を上げて私を睨むと、
「貴女って子は…あの人まで丸め込んだのね!
あの人は私を愛していたの!しつこいくらいに求婚してきて…。私は誰よりも美しかった!あの人以外にも候補はたくさんいたのよ!その中から私が選んでやったというのに…裏切るなんて!」
と最後の方は私ではなく、父への文句だったようだが、怒りの矛先は私に向かっている。
「クロエはお義父様に代わり、この侯爵家で働く者、侯爵領の領民全ての生活を守るため頑張ってくれています。
それだけではない。国王陛下からの信頼も厚く、国民の為にも働いている。
…その間、貴女は何をしていたのですか?
病気で床に臥せっている伴侶を捨て、今の今まで音沙汰もなし。
先程お義父様が言っていたように、お金が底をつきましたか?
此処に戻れば、皆が歓迎するとでも?
それは些か身勝手が過ぎるでしょう」
そう言ったマルコ様を今度は睨みながら、
「他人が偉そうな事を言わないで!
あの人の妻は私よ!あんな…使用人上がりの女にのぼせ上がったのも、弱っていたからよ。気の迷い。直ぐに私と復縁したいと言い出すに決まってるわ!歓迎されないのは、あの女の方よ!」
と元母は、今度はナラへの八つ当たりを始める。
…この人と血が繋がっているのが恥ずかしい。
そう思っていたら、執事が、アントン伯爵の到着を告げた。
…やっとこの人から解放されるかしら?
アントン伯爵は応接室に入るなり、
「お前と言う女は!この恥知らずが!
アントン伯爵家がどれだけ、このオーヴェル家に助けられたと思っているんだ!
それもこれも、お前がここに嫁いでくれたからだ。
前侯爵はアントン伯爵家にも目をかけてくれていた。…それなのに、恩を仇で返すような真似を…。
とりあえず、これ以上、ここへ迷惑をかけるわけにはいかない。うちの離れを貸すから、そこに住め。さぁ、帰るぞ!」
と元母の腕を掴むと、引っ張り上げて立たせた。
「い、痛いわ兄さん!離して!」
と腕を振りほどこうとする元母だが、アントン伯爵は力一杯掴んでいるようだ。
伯爵は私とマルコ様に向かって、
「大変ご迷惑をおかけしました。妹は連れて帰ります。しかし、出来れば今後とも我が伯爵家との取引だけは…」
と頭を下げようとした。
マルコ様はそれを止めると、
「アントン伯爵領の小麦は質が良い。もちろんこれからも商会との取引は続けさせて頂きますよ。安心して下さい」
と微笑んだ。
アントン伯爵もその言葉を聞いてホッとしたように、
「ありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いいたします」
と改めて頭を下げた。
ダメな妹を持つ上の気持ちは痛い程分かる。…お互い苦労するわね。
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