76 / 95
家族⑷
しおりを挟む
新幹線で3時間ほどかけて実家へと向かう。母親の手術は無事成功に終わったと1週間前美鈴から電話があった。ちょうど、すぐにGWに入る時期で、それに合わせて帰省することにした。今日は、このまま病院に行くことにしていて、そこで美鈴とも待ち合わせをしている。真野に今回の帰省の話をすると、すごく喜んでちゃんと母親と仲直りしないとダメだと言われた。なるべく善処すると約束させられて、家を出てきていた。
それでも、病室に入る前は緊張して呼吸を整えてから中に入ると、4人部屋の右側奥に美鈴の姿を見つけた。
「あ、春人……久しぶりだね。お母さん、春人来たよ」
美鈴が声をかけた先には、ベットに横になっている何だか一回り小さくなった母親の姿が見えた。母親は、こちらに視線を向けて、小さく頷き、その顔が思っていたよりも、元気そうでホッとする。
「調子どう?」
「うん。まぁ……」
それ以上会話は続かず、2人とも黙ってしまう。その空気を破ってくれた救世主は、美鈴だった。仕事は順調かとかいつまでいれるのかとか、いつもは口うるさくうんざりするような言葉が今は、ありがたかった。そこにプルルルル……と耳慣れた音が響く。
「あ、ごめん。電話だわ。ちょっと出てくる」
そう言い残すと、美鈴は電話を耳に当てて病室を出て行く。残されたオレと母親の間にはまた、無言の空気が流れ込み、カーテンで区切られていたけど、隣のベットの患者と看護師の声が嫌でも耳に入ってくる。
「しばらく、帰らなくて悪かった……父さんにも謝りに、手を合わせに行こうと思ってる。」
「うん……」
「それに、母さんにも……嫌な思いさせてしまったと思ってる……」
最後の方は、目を逸らし俯き加減になってしまう。また、沈黙の重い空気に包まれそうになった時、母親が口を開いた。
「私の方こそ……春人にずっと辛い思いをさせてきたのかなって。でも……春人に幸せになってもらいたいと思っていたのよ」
「うん……それはわかってる……」
「私だって、別にそういう人達に偏見とかあったわけじゃないの……でも…でもね……自分の息子ってなるとやっぱり……なんて言うか、気持ちが追いつかなくって。それに、若い頃の一時の感情とか、両方対象の人もいるし……あえて厳しい道に行かなくてもいいと思ってたのよ……」
「でも、オレは……」
「うん……もう、わかってるの……春人のためって言いながら、結局、私のエゴだったのよ……ごめんなさい……」
まさか、母親がそんな風に思っていたとは思わなかった。自分のことはわかってもらえてないとずっと思っていた。もしかしたら、母親は色々と調べてたのかもしれない。普通の恋愛よりも周りの目が厳しいのは確かなのだ。だけど……とも思う。オレの気持ちを無視して欲しくなかった。どんなに心配されたとしても、それはオレが望むところではないのだ。
母親の思いとオレの思いを考えたとき、急に真野のことが頭を掠めた。オレが真野との将来を躊躇するのと同じではないかということ。どんなに気にかけて心配したとしても、結局真野の気持ちを無下にしてはいけないということ。オレの真野に対する不安は、母親がオレに対して抱いているものと同じなのではないかということ。結局、お互いに思いを言葉にしないと、真意はつたわらないということだ。
それでも、病室に入る前は緊張して呼吸を整えてから中に入ると、4人部屋の右側奥に美鈴の姿を見つけた。
「あ、春人……久しぶりだね。お母さん、春人来たよ」
美鈴が声をかけた先には、ベットに横になっている何だか一回り小さくなった母親の姿が見えた。母親は、こちらに視線を向けて、小さく頷き、その顔が思っていたよりも、元気そうでホッとする。
「調子どう?」
「うん。まぁ……」
それ以上会話は続かず、2人とも黙ってしまう。その空気を破ってくれた救世主は、美鈴だった。仕事は順調かとかいつまでいれるのかとか、いつもは口うるさくうんざりするような言葉が今は、ありがたかった。そこにプルルルル……と耳慣れた音が響く。
「あ、ごめん。電話だわ。ちょっと出てくる」
そう言い残すと、美鈴は電話を耳に当てて病室を出て行く。残されたオレと母親の間にはまた、無言の空気が流れ込み、カーテンで区切られていたけど、隣のベットの患者と看護師の声が嫌でも耳に入ってくる。
「しばらく、帰らなくて悪かった……父さんにも謝りに、手を合わせに行こうと思ってる。」
「うん……」
「それに、母さんにも……嫌な思いさせてしまったと思ってる……」
最後の方は、目を逸らし俯き加減になってしまう。また、沈黙の重い空気に包まれそうになった時、母親が口を開いた。
「私の方こそ……春人にずっと辛い思いをさせてきたのかなって。でも……春人に幸せになってもらいたいと思っていたのよ」
「うん……それはわかってる……」
「私だって、別にそういう人達に偏見とかあったわけじゃないの……でも…でもね……自分の息子ってなるとやっぱり……なんて言うか、気持ちが追いつかなくって。それに、若い頃の一時の感情とか、両方対象の人もいるし……あえて厳しい道に行かなくてもいいと思ってたのよ……」
「でも、オレは……」
「うん……もう、わかってるの……春人のためって言いながら、結局、私のエゴだったのよ……ごめんなさい……」
まさか、母親がそんな風に思っていたとは思わなかった。自分のことはわかってもらえてないとずっと思っていた。もしかしたら、母親は色々と調べてたのかもしれない。普通の恋愛よりも周りの目が厳しいのは確かなのだ。だけど……とも思う。オレの気持ちを無視して欲しくなかった。どんなに心配されたとしても、それはオレが望むところではないのだ。
母親の思いとオレの思いを考えたとき、急に真野のことが頭を掠めた。オレが真野との将来を躊躇するのと同じではないかということ。どんなに気にかけて心配したとしても、結局真野の気持ちを無下にしてはいけないということ。オレの真野に対する不安は、母親がオレに対して抱いているものと同じなのではないかということ。結局、お互いに思いを言葉にしないと、真意はつたわらないということだ。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ふつつかものですが鬼上司に溺愛されてます
松本尚生
BL
「お早うございます!」
「何だ、その斬新な髪型は!」
翔太の席の向こうから鋭い声が飛んできた。係長の西川行人だ。
慌てん坊でうっかりミスの多い「俺」は、今日も時間ギリギリに職場に滑り込むと、寝グセが跳ねているのを鬼上司に厳しく叱責されてーー。新人営業をビシビシしごき倒す係長は、ひと足先に事務所を出ると、俺の部屋で飯を作って俺の帰りを待っている。鬼上司に甘々に溺愛される日々。「俺」は幸せになれるのか!?
俺―翔太と、鬼上司―ユキさんと、彼らを取り巻くクセの強い面々。斜陽企業の生き残りを賭けて駆け回る、「俺」たちの働きぶりにも注目してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる