忘れられない思い

yoyo

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家族⑶

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   父親が死んだ時のことを考えながら、美鈴の言葉を聞いていた。


「お母さん、手術することになったの」

「え?どっか悪いのか?手術って……」

「うん……胃癌だって。今、ステージⅡで、手術で病巣を取り除くことができれば、そこまで悲観することはないみたいだけど……」

「……そうか……」


   母親はオレに知らせなくてもいいと言っていたらしいが、手術が終わった後でもいいから、顔を出せと話してきた。美鈴は、今までもオレと母親の仲を取り持つように動いてくれていたけど、母親もオレも頑固者という唯一の共通点の為に、全く上手くいかなかった。
   今回の手術は、そこまで難しいものではないようだが、手術に絶対はない。美鈴の「父親のときのような思いはしたくないでしょ」という言葉が、決定打になって、来月帰ることを約束した。




「先生、疲れてる?何かありました?」


   一緒に夕食を食べるために家に来ていた真野が、心配そうな眼差しを向けてくる。オレは、何か心配事があっても、表に出すことは殆どなく、周りからも気づかれたことはない。全て解決したあとに、実はと話を振ると「そうだったの?」と驚かれることが多い。今回も自分ではいつもと変わらず接していたつもりだったけど、真野は昔から妙に鋭くよく気づく。


「あ、いや……」


   少し濁しながら目を逸らそうとすると、眉根を寄せてジッと見つめてきて、目を逸らすことを許してくれない。余計な気を遣わせたくなくて、母親のことは言うつもりはなかったけど、真野の困り顔に負けて、母親の病気のこと、あまり折り合いがよくないことなどを白状する。
   話終わったときには、さらに真野の眉は寄ってシワを作らせてしまった。そんな顔をさせたくなかったから、話さなかったのにと思う。


「そんな顔させたくなかったんだけどな」

「ごめんなさい。ボクなんかが首突っ込んじゃいけなかったですよね……」


   確かに家族のことだけど、距離を置いて欲しい訳じゃない。
   隣にいた真野を抱き寄せる。


「そんなことない。オレの家族の問題だけど、一緒に考えてくれる?」

「ボクで……いいんですか……」

「真野……お前とがいいよ」

「先生……」


   引き寄せていた体を少し離して、額と額をくっつけると、じんわり体温が伝わってくる。やっぱり、これから先も真野と一緒にいて家族になりたいと思う。そのまま顔をズラして、唇を重ねた。
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