忘れられない思い

yoyo

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影の立役者

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 今日もまんぷく屋は、賑わっていて泰輔さんも夕花里さんも忙しそうに動いている。ボクは、カウンター席で厨房の泰輔さんの様子をボーッと眺めていた。


「真野くん、1人?注文はどうする?」

 一旦、配膳が落ち着いた夕花里さんが聞いて来た。


「あ、いや。ここで先生と待ち合わせしてるんです。なので、注文は先生が来てからでもいいですか?」

「そっか。了解!」

「はい、ロースカツ定食あがったよ」


 泰輔さんがカウンター横の台に、ロースカツ定食を置くとそれを持って夕花里さんは離れて行く。

「おっ、久しぶりだな」


 ニヤニヤと泰輔さんはボクの方を見てくる。これは……先生からこの間のこと聞いたのだろうか。

「よかったな」

 そう言うと、また奥の厨房へと戻って行く。
 やっぱり、お互いに気持ちを伝えたこと聞いたらしい……


 でもあの後、何もなくて、確かに気持ちを伝えあってはいるけど、そこで盛り上がってなんてことはまるでなかった。コーヒー飲んで、先生が京都で買って来てくれた生八ツ橋食べて……本当にそれだけ。
 次の日から、ボクは急な出張に行かなくちゃいけなくなり、1週間ほど先生に会えていない。



 まんぷく屋のお客が少し落ち着いた頃、先生が姿を現した。

「悪い……遅くなちゃったな」

「いえ、大丈夫です。お疲れ様です」


 先生は笑って、ボクの隣の席に腰を下ろした。注文を頼もとした時、夕花里さんが瓶ビールとコップ2つをテーブルの上に置く。


「これは、2人にお祝いね。ふふっ、うまくいったんでしょ」

 泰輔さんが知ってるなら当然、夕花里さんも知ってるよな……と思う。


「あーほら、早く注文、注文。オレは日替わりのロースカツで、真野は?」

「あ、じゃあボクも同じので……」


 先生は、夕花里さんに一気にまくし立てるように注文して、シッシッと追い払うような仕草をする。
 先生とご飯を食べるようになってから知ったけど、先生は焦ったり、照れたりすると少し乱暴な言葉遣いになる。これは、だいぶ照れているのかもしれない。


 ボクが高校生の時は、先生は何でも余裕でやっていて、すごく大人に見えたけど、素の先生は全然そんなことなくて、そんな先生を知れることはすごく新鮮で、得した気分だ。



 せっかくだからと夕花里さんが置いていったビールを注ぎ、お互い軽くコップを合わせた。

「真野も出張お疲れ様。今日帰って来たんだよな」

「はい。夕方の便で帰って来ました。そのままもう帰宅していいことになってたので、1回家に帰ってから来ました」

「それじゃあ、疲れただろ。今日じゃなくても良かったのに」

「でも……」


 早く先生に会いたかったから……

 面と向かっては言いにくくて、言葉を濁していると、察してくれたのかフッと笑って頭を撫でてきた。そのまま、先生を見つめてしまう。


「はいはいー。ここでイチャイチャするの禁止ねー」

 泰輔さんが、ロースカツ定食を2つ持って厨房からでてきていた。ラストオーダーも終わり、少し手が空いたようだ。


「そっ、そんなことしてないだろ!!」

「そんな顔して言われてもね~」

 ボクは顔が一気に火照ってしまったけど、隣で怒鳴り声を上げている先生の顔も赤くなっていた。


「真野くん、ロールキャベツはうまくできたかい?」

「はい。ありがとうございました」

「ん?何で、泰輔にお礼言ってるの?」

「えー、だって今回の影の立役者は俺だよ。真野くんに春人の誕生日と好物教えたんだから。いい仕事しただろ、俺」


 先生は、納得できないという顔をして少しふて腐れてしまったけど、ボクは泰輔さんに感謝の気持ちでいっぱいだった。
 あの時、話を聞いてもらって背中を軽く押してもらえたから、伝えられたと思っている。

 もう、店にはボクらしかいなくなっていて、夕花里さんも来て、4人で改めて乾杯した。
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