神さまのレシピ

yoyo

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看護師失格⑴

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   休憩時間に颯の病室に行くのは、もう習慣化されていた。たまに看護主任や朝也から1人の患者に入れ込みすぎるなと注意されたが、休憩時間は看護師としてではなく、友人として関わっていると屁理屈をこねてその場をやり過ごした。自分でもなぜ、こんなに颯に関わっているのかわからなかった。初めは同情の持ちが強かったが、今ではただ単純に、颯といると楽しくて心が落ち着けた。癒す側なのに、こんなことを思うんんて看護師失格なのかもしれないけど……
   最近は颯の周りを覆っていた壁が、だいぶ低くなって表情もよく、入院当初を思うと本当に嬉しく思っていた。ただ、グイグイ行きすぎて顔を背かれることもあるけど、それさえも何だかかわいくみえてしまう。


「湖城さん?」

   颯の声に一気に現実に引き戻される。今日も昼休憩に、颯と談話室に来ていた。顔を向けると心配そうに見つめる颯がいる。

「疲れてるんじゃないですか?毎日僕のところに来なくても大丈夫ですよ」

「いや、そんなことないよ。ごめん、ちょっとボーッとしてただけ。何かあった?」

「あ、いや……こんなにたくさん持ってくるの大変だったんじゃないかなと思って」

   紙袋に入っているたくさんの漫画本を手に取って、颯は少し困惑の色をしていた。もともと読書家の颯だったけど、小説だけでなく漫画も好きで同じ作品を読んでいることを知って、家にあったオススメの漫画を持ってきていた。


「いや。看護寮すぐそばだし、そんなに大変じゃないよ。それにこれ、すっごく面白いから颯くんに、是非読んでもらいたかったんだよね。知ってる?この漫画?」

「名前だけは……でも、読んだことないです」

「あの漫画が好きなら、これもハマると思うんだよね」以前、話が盛り上がった漫画のタイトルを口にする。いつも読んでいる小説は涼風が用意してくれていが、漫画までは頼めないと話していた。それならと漫画本を持ってきたのだ。


   今までも患者に対して距離が近くなりすぎると、先輩や同僚から言われ続けていたし、湖城自身もそうかもなぁとは思っていた。それでも自分の中ではきちんと境界線を持ってるつもりだったし、家族や友達ではないという自覚を持って関わってきていた。だけど、颯の場合はそこの境界線をあやふやにしてしまう。昼休憩に一緒に過ごすとか、今まではやらなかったし、それこそ看護師と患者の境界線を越えることだと思っていた。颯とは一時期専属でついていたこともあり、そのせいだと自分を納得させようとしているけど、颯との時間に心地よさを感じてしまう自分もいた。特に、あの無表情だった颯が最近では、コロコロと感情を変えるので目が離せなかった。
   やはり、看護師失格かもしれない。
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