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どうして、こうなった?
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下腹部に違和感がある。何か濡れてる?いや……漏れてる……?股間を抑えて、慌てて起き上がる。
え、え、え? 嘘だろ……オシッコ漏れてる……?
トイレに向かおうとして、一瞬の違和感。あれ、どこだっけ……あーそっか……奏の家に来てたんだっけ?
便座に座って、残りを全部出す。そんなに切羽詰まっていた様子はなかった。だけど、パンツはぐっしょりと濡れて、ズボンにまで染みてグレーのスウェットの色が変わっていた。
「なんで……ど……どうしよう……」
佐久間依織は就職して3ヶ月。そこそこ大手の企業に就職出来て、1ヶ月の研修期間が終わって、今の営業部署に配属された。仕事は忙しくて、ほぼ毎日、残業の日々だったけど、それでも大手だけあって福利厚生はしっかりしていたから、休みはしっかりと確保されていた。仕事を教えてくれる先輩方も親切で優しかったけど、営業部を取りまとめている上司が、最悪だった。ワンマンで、無茶な仕事を全て部下に丸投げするようなタイプだった。
仕事内容は、周りの先輩方に助けてもらいながら、こなすことができていたが、それでも時間がかかってしまうことに対して、毎日、ネチネチと嫌味を言われた。
それに、出身大学も気に入らないようで、そのことでも散々ネタにされた。周りもフォローしてくれることもあるが、そもそも仕事量が尋常じゃないので、常に新人をフォローしている余裕もないのも事実だった。
実際「佐久間が課長に捕まっていると、自分のところに来ないから仕事がはかどる」と言われたことがあった。確かに、新人の依織が仕事をするよりも、周りの仕事がはかどるように、上司のはけ口になっていた方が、順調にまわるのだろう。
それでも、毎日毎日「お前は仕事が遅い」「あの大学も質が落ちた。こんな奴が入れるなんて」「給料泥棒」などなど、言われ続けられると本当に自分は無能で何もできない人間に思えてくる。休みの日は、何も気力なく家にこもって寝るだけで1日が終わってしまうことがほとんどで、家と職場だけの往復だけで日々が過ぎていった。
そんな日々に、久しぶりに朝永奏から、連絡があった。奏は、大学のときの友達で、マンションの部屋も隣同士だったから、お互いの部屋を行き来してどっちかの部屋にいることが多く、いっそ一緒に住んでいた方が経済的に良かったのではないかと思うほどだった。だけど、入社を機に近くの寮に入ることにしたから、パッタリと会わなくなった。なので、本当に久しぶりだった。
「じゃあ、久しぶりの再会に乾杯!」
そう言った奏と今運ばれてきたビールジョッキを合わせる。
「奏は仕事慣れた?」
「んー。なんとか?はぁ~でもマジ疲れるわ~。依織は?何か少し痩せた?」
「どうかな……?」
お酒が進むと、今まで溜め込んでいたものが、愚痴となって出てきた。奏は、こんなめんどくさい愚痴にずっと付き合ってくれた。
「かーなでー、だーから、課長の嫌味を聞くために、あの会社にー入ったわけじゃ、ないんだよ。なのに……なんで……」
「伊織、飲み過ぎだよ。さぁ、今日はもう、帰ろ」
「まだ……だいじょうーぶだよー。まだ帰らない~」
「わかった、わかった。じゃあ、久しぶりに俺の家においで。明日は休みだろ?」
そんなこんなで、奏の家に来たんだった。家について、スエットを借りて着替えると、もうそのまま寝てしまったようで記憶がなかった。だけど起きた時布団に入ってたので、奏が寝かせてくれたんだろう。
もう、すっかり酔いは醒めて自分のやらかした大失態が、まざまざと突き刺さり、泣けてくる。何で、この歳になってやらかしてしまったのか。過去にもっとベロベロに酔っ払った時でも、こんな失敗はしたことがなかった。
しかもよりによって、奏の家で……もう、どうしていいかわからなくて、涙が出てくる。
「うっ……うっ……どうしよ……」
しばらく、トイレに籠っていたが何も状況は変わらず、次第に布団は大丈夫なのか心配になり、濡れたパンツとズボンをまた身につけて、奏を起こさないように、静かに出てきたのに、名前を呼ばれてビクッと体が縮こまる。
「依織?大丈夫か?もしかして具合悪い?」
「……んっ、だ……い……じょうぶ……」
「あんまり大丈夫そうな声じゃないけど……だいぶ、トイレに籠ってたよね。どうした?」
奏は、気持ち悪くてトイレに籠っていたと勘違いしているようだったけど、具合が悪いわけではないし、濡れて冷たくなっている下着が自分の失態を強調して、止まっていた涙がまた出てきてしまう。
「んっ……んっ……な、んでも……ない……」
「泣いてる?どうしたんだよ。なんでもなくないだろ。待って、今電気つけるから」
「あっ、いや……」
パッと部屋が明るくなり、奏の視線が濡れている下半身にいっているのに気づき、咄嗟にしゃがむが全てバレてしまったはずだ。
「み、見ないでっ!うっ……うー」
「え、あー依織……その、大丈夫だから。昨日、だいぶ飲んでたし……」
「うっ……うっ……この歳で……普通こんな失敗……しないでしょ……」
少し困惑気味の奏の声を聞くと余計に、情けなさと恥ずかしさで顔を上げることができない。その時、フワッと上から抱きしめられた。
「仕事がかなり、しんどそうだからさ、心と体が悲鳴をあげてるんだよ。気にするなよ。なっ」
「うっ……うっ……ご、ごめん……たぶん、色々汚した……」
「ん?んー……布団は大丈夫みたいだよ。依織が思ってるより、酷いことにはなってないよ」
「え?」
恐る恐る顔を上げると、覗き込んできた奏と目が合う。バツが悪くて目をそらし、先程まで寝ていた布団の方へ目をやると、確かに濡れている様子はなかった。
「なっ。大丈夫だろ。ちょっとチビちゃっただけだよ。とりあえず、着替えるか。あ、シャワー浴びる?」
「ごめん……じゃあ……シャワー……かりる……」
「うん。着替え置いておく」
シャワーに入り、少し体が温まると気持ちも落ち着いてきた。奏が用意してくれた着替えを着て部屋に戻ると水を手渡される。カーテンの隙間から見える外は、もう薄っすら明るくなり始めていた。
「少しは落ち着いたか?」
「あぁ……うん。寝てても良かったのに……」
「うん……あ、パンツ……悪い。買い置きなくて……でも一番綺麗なやつにしたから……」
「ふふっ……そんなに気にしないよ。こっちこそ気を遣わせて、悪い」
「やっと笑った……ふぁ~じゃあ、もうひと眠りするか」
時計を見ると、まだ4時を少し回ったところで、布団に入ればまたすぐに寝れそうだったけど、またやっちゃうんじゃないかと不安になる。
「1人じゃ眠れない?じゃあ、一緒に寝ちゃう?」
「なっ……何言ってんだよ。1人で寝れるよっ」
そう言って、布団に潜るが「そう言うなって」と奏は無理やり布団に入ってくる。奏を布団から追い出そうとするが、後ろからがっちりホールドされてしまい、身動きができない。
「暴れるなって。学生の頃だって、雑魚寝して一緒に寝たこともあっただろ」
「いや……でも、おかしいだろっ」
「おかしくない、おかしくない。ほら、寝るよ。俺はもう眠いんだから」
夜中に起こしてしまい迷惑をかけた手前、さらに奏の睡眠を邪魔するわけにはいかず観念する。奏とこんな状態でいるのは、おかしいと思いながらも奏の体温がじんわり伝わってきて、さっきの不安な気持ちが少し和らぐ。そしてそのまま、意識も薄らいでいった。
え、え、え? 嘘だろ……オシッコ漏れてる……?
トイレに向かおうとして、一瞬の違和感。あれ、どこだっけ……あーそっか……奏の家に来てたんだっけ?
便座に座って、残りを全部出す。そんなに切羽詰まっていた様子はなかった。だけど、パンツはぐっしょりと濡れて、ズボンにまで染みてグレーのスウェットの色が変わっていた。
「なんで……ど……どうしよう……」
佐久間依織は就職して3ヶ月。そこそこ大手の企業に就職出来て、1ヶ月の研修期間が終わって、今の営業部署に配属された。仕事は忙しくて、ほぼ毎日、残業の日々だったけど、それでも大手だけあって福利厚生はしっかりしていたから、休みはしっかりと確保されていた。仕事を教えてくれる先輩方も親切で優しかったけど、営業部を取りまとめている上司が、最悪だった。ワンマンで、無茶な仕事を全て部下に丸投げするようなタイプだった。
仕事内容は、周りの先輩方に助けてもらいながら、こなすことができていたが、それでも時間がかかってしまうことに対して、毎日、ネチネチと嫌味を言われた。
それに、出身大学も気に入らないようで、そのことでも散々ネタにされた。周りもフォローしてくれることもあるが、そもそも仕事量が尋常じゃないので、常に新人をフォローしている余裕もないのも事実だった。
実際「佐久間が課長に捕まっていると、自分のところに来ないから仕事がはかどる」と言われたことがあった。確かに、新人の依織が仕事をするよりも、周りの仕事がはかどるように、上司のはけ口になっていた方が、順調にまわるのだろう。
それでも、毎日毎日「お前は仕事が遅い」「あの大学も質が落ちた。こんな奴が入れるなんて」「給料泥棒」などなど、言われ続けられると本当に自分は無能で何もできない人間に思えてくる。休みの日は、何も気力なく家にこもって寝るだけで1日が終わってしまうことがほとんどで、家と職場だけの往復だけで日々が過ぎていった。
そんな日々に、久しぶりに朝永奏から、連絡があった。奏は、大学のときの友達で、マンションの部屋も隣同士だったから、お互いの部屋を行き来してどっちかの部屋にいることが多く、いっそ一緒に住んでいた方が経済的に良かったのではないかと思うほどだった。だけど、入社を機に近くの寮に入ることにしたから、パッタリと会わなくなった。なので、本当に久しぶりだった。
「じゃあ、久しぶりの再会に乾杯!」
そう言った奏と今運ばれてきたビールジョッキを合わせる。
「奏は仕事慣れた?」
「んー。なんとか?はぁ~でもマジ疲れるわ~。依織は?何か少し痩せた?」
「どうかな……?」
お酒が進むと、今まで溜め込んでいたものが、愚痴となって出てきた。奏は、こんなめんどくさい愚痴にずっと付き合ってくれた。
「かーなでー、だーから、課長の嫌味を聞くために、あの会社にー入ったわけじゃ、ないんだよ。なのに……なんで……」
「伊織、飲み過ぎだよ。さぁ、今日はもう、帰ろ」
「まだ……だいじょうーぶだよー。まだ帰らない~」
「わかった、わかった。じゃあ、久しぶりに俺の家においで。明日は休みだろ?」
そんなこんなで、奏の家に来たんだった。家について、スエットを借りて着替えると、もうそのまま寝てしまったようで記憶がなかった。だけど起きた時布団に入ってたので、奏が寝かせてくれたんだろう。
もう、すっかり酔いは醒めて自分のやらかした大失態が、まざまざと突き刺さり、泣けてくる。何で、この歳になってやらかしてしまったのか。過去にもっとベロベロに酔っ払った時でも、こんな失敗はしたことがなかった。
しかもよりによって、奏の家で……もう、どうしていいかわからなくて、涙が出てくる。
「うっ……うっ……どうしよ……」
しばらく、トイレに籠っていたが何も状況は変わらず、次第に布団は大丈夫なのか心配になり、濡れたパンツとズボンをまた身につけて、奏を起こさないように、静かに出てきたのに、名前を呼ばれてビクッと体が縮こまる。
「依織?大丈夫か?もしかして具合悪い?」
「……んっ、だ……い……じょうぶ……」
「あんまり大丈夫そうな声じゃないけど……だいぶ、トイレに籠ってたよね。どうした?」
奏は、気持ち悪くてトイレに籠っていたと勘違いしているようだったけど、具合が悪いわけではないし、濡れて冷たくなっている下着が自分の失態を強調して、止まっていた涙がまた出てきてしまう。
「んっ……んっ……な、んでも……ない……」
「泣いてる?どうしたんだよ。なんでもなくないだろ。待って、今電気つけるから」
「あっ、いや……」
パッと部屋が明るくなり、奏の視線が濡れている下半身にいっているのに気づき、咄嗟にしゃがむが全てバレてしまったはずだ。
「み、見ないでっ!うっ……うー」
「え、あー依織……その、大丈夫だから。昨日、だいぶ飲んでたし……」
「うっ……うっ……この歳で……普通こんな失敗……しないでしょ……」
少し困惑気味の奏の声を聞くと余計に、情けなさと恥ずかしさで顔を上げることができない。その時、フワッと上から抱きしめられた。
「仕事がかなり、しんどそうだからさ、心と体が悲鳴をあげてるんだよ。気にするなよ。なっ」
「うっ……うっ……ご、ごめん……たぶん、色々汚した……」
「ん?んー……布団は大丈夫みたいだよ。依織が思ってるより、酷いことにはなってないよ」
「え?」
恐る恐る顔を上げると、覗き込んできた奏と目が合う。バツが悪くて目をそらし、先程まで寝ていた布団の方へ目をやると、確かに濡れている様子はなかった。
「なっ。大丈夫だろ。ちょっとチビちゃっただけだよ。とりあえず、着替えるか。あ、シャワー浴びる?」
「ごめん……じゃあ……シャワー……かりる……」
「うん。着替え置いておく」
シャワーに入り、少し体が温まると気持ちも落ち着いてきた。奏が用意してくれた着替えを着て部屋に戻ると水を手渡される。カーテンの隙間から見える外は、もう薄っすら明るくなり始めていた。
「少しは落ち着いたか?」
「あぁ……うん。寝てても良かったのに……」
「うん……あ、パンツ……悪い。買い置きなくて……でも一番綺麗なやつにしたから……」
「ふふっ……そんなに気にしないよ。こっちこそ気を遣わせて、悪い」
「やっと笑った……ふぁ~じゃあ、もうひと眠りするか」
時計を見ると、まだ4時を少し回ったところで、布団に入ればまたすぐに寝れそうだったけど、またやっちゃうんじゃないかと不安になる。
「1人じゃ眠れない?じゃあ、一緒に寝ちゃう?」
「なっ……何言ってんだよ。1人で寝れるよっ」
そう言って、布団に潜るが「そう言うなって」と奏は無理やり布団に入ってくる。奏を布団から追い出そうとするが、後ろからがっちりホールドされてしまい、身動きができない。
「暴れるなって。学生の頃だって、雑魚寝して一緒に寝たこともあっただろ」
「いや……でも、おかしいだろっ」
「おかしくない、おかしくない。ほら、寝るよ。俺はもう眠いんだから」
夜中に起こしてしまい迷惑をかけた手前、さらに奏の睡眠を邪魔するわけにはいかず観念する。奏とこんな状態でいるのは、おかしいと思いながらも奏の体温がじんわり伝わってきて、さっきの不安な気持ちが少し和らぐ。そしてそのまま、意識も薄らいでいった。
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