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白薔薇は妖精王に会う2
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「何をしている!」
「引け!」
マーカラム師と父上が同時に叫んだ。
ぽとりと落ちるわたし、消える詠唱に、しぶしぶしまわれる武器。
「そこに座りたまえ!」
マーカラム師が青筋たてて、床を指す。
パトリックは偉そうに、ローは申し訳なさそうに、わたしは薄ら笑いを浮かべて座った。
「一体……何をしていたのかね?」
「ええと……傷が治って暇だったので、お見舞いに来てくれたロー君に体術の型を見せて貰っていたんです。で、わたしが真似していたら、パトリックが来て、それで笑われたので、わたしが悪口を言ったらパトリックが怒って……わたしが悪かったんです!パトリックが陛下の姿絵……」
ひゅんとローの手がわたしの口を塞ぐ。パトリックが目で殺すって言ってる。
あ、ごめん。父上と兄様達が怖い顔してるから、テンパってしゃべっちゃうところだったよ。
口を押さえているローにこくこく頷いて目で合図すると、手が離れる。
「ええと、わたしが悪かったです」
頭を床にすりつける。ローも黙って頭を下げた。そして、パトリックは背筋を伸ばしたまま、微動だにしない。……パトリック……なんで、頭下げないの?
あり得ないでしょ!わたしとローが土下座してるのに!
脇腹に思い切りパンチすると、指がぱきっと鳴る。痛いよ!この筋肉ダルマ!どんな腹筋してんの!
「──パトリック君、ロー君。メリドウェン君は大変な怪我から回復したばかりだよ?ちょっと……配慮が足りなかったのではないかな?」
マーカラム師がパトリックを睨む。空気読めって言ってるよね!
読んで!パトリック!
「ちっ!」
ちょっと。今、舌打ちしたよね!
「申し訳ありませんでした」
パトリックが反省のかけらも感じさせない棒読みでそう言うと頭を下げる。ちょっと、頭、床についてないよ!全く、土下座の仕方も知らないとか、騎士として教育が足りないんじゃないの?それに比べて、ローの土下座姿の美しさ。さすが東国の狼だよね。ぴしっと背筋が伸びてて、ああ、こんな感じで「息子さんをください」とか父上の前で言われたら、悶絶しちゃうよ!
あ、そんな妄想してる場合じゃなかった。
ぱっと顔をあげると、わたしは愛想笑いを浮かべて、たたっと父上の前に走った。
「父上、お元気そうで何よりです」
右手を胸で組んで優雅に頭を下げる。微笑んで目をあげると、父上の瞳がうるっと潤んで、がしっと抱き寄せられる。
父上、甲冑着てるの忘れてらっしゃいませんか?ちょ、馬鹿力。く、苦しい。顔に甲冑の跡がついちゃう。
あと、またちょっと浮いてる。足が浮いてます!ちちうえぇ。
「白薔薇よ」
涙を湛えたうるっとした目で見下ろされる。
わたし、エルフ規格だとちょっと小さいんだよね。頭一つくらいだけどね。
「わざわざお見舞いありがとうございます」
にっこり微笑んでみる。父上の頬が赤くなった。いやはや、まだ子離れというかわたし離れ出来てないんだね。困ったものだ。
「さあ、帰ろう。白薔薇よ」
父上の言葉に兄上達がうんうんと頷く。
いやいや、ちょっと待って。
「帰るって、今夜の宿のことでしょうか?」
可愛らしさ全開で聞けば、兄上達が口を押さえて顔を真っ赤にして震え出す。こっちもまだブラコンというかメリコン健在かあ。
「私が帰ると言えば、我が城、お前の故郷に決まっておろう?」
肩に手を回されて強引に押される。後ろを振り向くと、ローが真っ青な顔でこっちを見ている。まるで、捨てられた犬みたいな顔してこっち見てる。
なんでわたし、ローにあんな顔させてるの?
助けてって言えばローは助けてくれる。
でも、それじゃダメだ。
わたしはローを愛してるんだから、堂々としてなきゃダメだ。
「父上?エルフの長はいつから礼儀を忘れたのですか?」
わたしは父上の手を払うと立ち止まった。
「何を言う?」
父上が眉を寄せてわたしを見下ろす。わたしは髪を払うとにっこり微笑ってみせた。
「見てください」
わたしは両手を父上に見せた。
「まだ痣はありますけれど、すぐに回復します。魔法も使えますし、楽器も弾けます。オオカミ族のローがわたしを助けてくれました。
なのに父上は、彼の者の労いもせずに立ち去ろうとしているではありませんか。わたしは父上の息子として、またエルフ族の一人として、父上が礼儀を知らず、また薄情であること、恥ずかしく思います」
父上の眉が寄る。 険悪そのものの顔でローを指差す。
「そもそもの傷も、その者のせいではないか!」
うっざいなあ、間者から情報は把握済みなんだね。学園都市のセキュリティ大丈夫なのかな。後で調べて置かないと、ローとのあれこれがダダ漏れとかになりそうだよね。
わたしはうるうると涙を浮かべて父上を見た。嘘泣きなら任せてよね。
「目の前で人が死のうとしているのに、それを見捨てろとおっしゃるのですか?メリーがそんな薄情なエルフだと?
そもそもわたしが自分の度量を誤り、魔力を枯渇させ、身に余る事態に安易に手を出した結果です。責められるべきなのはわたしです」
涙を浮かべるわたしを父上が苦々しげに見つめる。震える目蓋の間からぽろぽろと涙がこぼれると、耐えきれないと言うように目を逸らす。
父上はローを睨みつけると荒々しく言った。
「狼よ。大儀であった。我が白薔薇を痛みから救い、助けた事を感謝する」
楽勝だね。
心の中でガッツポーズを決めた。
「ありがとうございます」
ローが片膝をついて右手を前で組むと頭を下げた。
「参ろう。白薔薇よ」
父上の手を逃れて走る。ローの前に立つと、両手を差し出した。
戸惑いがちに出されたローの手を握って、手のひらを上にすると、その手にそっとキスをして立ち上がらせる。
後ろで兄上達が「なんだと」「まさか!」「嘘だ」とどよめく。
手のひらにキスするのはエルフの男が愛する人にすることだからね。わたしは父や兄の前でローに求愛したということだ。
わたしはローに微笑みかける。溶けた銀色の目が悲しげにわたし目をのぞき込んだ。じっと見つめると、ゆらりとその目に希望がよぎる。
そうだよ、ロー。
わたしを信じて。
わたしはローの手をにぎると、指と指を絡ませて父上に向き直った。
「──紹介します。父上、そして兄上。
わたしの愛する人、ロー・クロ・モリオウです。わたしはローに死の呪いがかかった時に、真実の愛と王子のキスでそれを打ち払って自らの愛を証明しました。わたしはローを伴侶にと望み、ローはわたしの傍らにあると約束してくれました。
祝福をいただけますか?父上」
わたしは左手を胸につけると頭を下げた。ローが続いて右手を胸つけて頭を下げる。二人の指は絡まったままだ。きゅっとローの手を握ると、ローの指先にも力が入る。
「お前はまだ子供ではないか!」
わたしは頭を下げたままローを見て微笑んだ。ローが少しうるんだ目で嬉しそうに微笑む。わたしは昂然と頭を上げて、晴れ晴れとした笑みを浮かべた。
「わたしはもう十八です。自分の事は自分で決められます。
わたしはローの命を救い、ローはわたしの命を救いました。昔から救った命は自分のものといいますよね?わたし達はお互いのものです。
父上も先ほどローに礼を言われたではありませんか。
父上の認められた通り、命をローに救われたわたしはローのものです」
謀られた事に気付いた父上の顔が赤くなる。
「許さ……」
「これは美しい」
大きな拍手が聞こえて、小さな身体が軽やかに部屋に滑り込んだ。
肩にかかる炎のような巻き毛、勝気な笑顔に輝くエメラルドグリーンの瞳。豪華な衣装は黒と赤。放たれるエネルギーに部屋の温度が上がる。
「ルーカス陛下」
最初に言ったのはパトリックだった。目の隅でパトリックが片膝をついて頭を下げるのが見える。
「引け!」
マーカラム師と父上が同時に叫んだ。
ぽとりと落ちるわたし、消える詠唱に、しぶしぶしまわれる武器。
「そこに座りたまえ!」
マーカラム師が青筋たてて、床を指す。
パトリックは偉そうに、ローは申し訳なさそうに、わたしは薄ら笑いを浮かべて座った。
「一体……何をしていたのかね?」
「ええと……傷が治って暇だったので、お見舞いに来てくれたロー君に体術の型を見せて貰っていたんです。で、わたしが真似していたら、パトリックが来て、それで笑われたので、わたしが悪口を言ったらパトリックが怒って……わたしが悪かったんです!パトリックが陛下の姿絵……」
ひゅんとローの手がわたしの口を塞ぐ。パトリックが目で殺すって言ってる。
あ、ごめん。父上と兄様達が怖い顔してるから、テンパってしゃべっちゃうところだったよ。
口を押さえているローにこくこく頷いて目で合図すると、手が離れる。
「ええと、わたしが悪かったです」
頭を床にすりつける。ローも黙って頭を下げた。そして、パトリックは背筋を伸ばしたまま、微動だにしない。……パトリック……なんで、頭下げないの?
あり得ないでしょ!わたしとローが土下座してるのに!
脇腹に思い切りパンチすると、指がぱきっと鳴る。痛いよ!この筋肉ダルマ!どんな腹筋してんの!
「──パトリック君、ロー君。メリドウェン君は大変な怪我から回復したばかりだよ?ちょっと……配慮が足りなかったのではないかな?」
マーカラム師がパトリックを睨む。空気読めって言ってるよね!
読んで!パトリック!
「ちっ!」
ちょっと。今、舌打ちしたよね!
「申し訳ありませんでした」
パトリックが反省のかけらも感じさせない棒読みでそう言うと頭を下げる。ちょっと、頭、床についてないよ!全く、土下座の仕方も知らないとか、騎士として教育が足りないんじゃないの?それに比べて、ローの土下座姿の美しさ。さすが東国の狼だよね。ぴしっと背筋が伸びてて、ああ、こんな感じで「息子さんをください」とか父上の前で言われたら、悶絶しちゃうよ!
あ、そんな妄想してる場合じゃなかった。
ぱっと顔をあげると、わたしは愛想笑いを浮かべて、たたっと父上の前に走った。
「父上、お元気そうで何よりです」
右手を胸で組んで優雅に頭を下げる。微笑んで目をあげると、父上の瞳がうるっと潤んで、がしっと抱き寄せられる。
父上、甲冑着てるの忘れてらっしゃいませんか?ちょ、馬鹿力。く、苦しい。顔に甲冑の跡がついちゃう。
あと、またちょっと浮いてる。足が浮いてます!ちちうえぇ。
「白薔薇よ」
涙を湛えたうるっとした目で見下ろされる。
わたし、エルフ規格だとちょっと小さいんだよね。頭一つくらいだけどね。
「わざわざお見舞いありがとうございます」
にっこり微笑んでみる。父上の頬が赤くなった。いやはや、まだ子離れというかわたし離れ出来てないんだね。困ったものだ。
「さあ、帰ろう。白薔薇よ」
父上の言葉に兄上達がうんうんと頷く。
いやいや、ちょっと待って。
「帰るって、今夜の宿のことでしょうか?」
可愛らしさ全開で聞けば、兄上達が口を押さえて顔を真っ赤にして震え出す。こっちもまだブラコンというかメリコン健在かあ。
「私が帰ると言えば、我が城、お前の故郷に決まっておろう?」
肩に手を回されて強引に押される。後ろを振り向くと、ローが真っ青な顔でこっちを見ている。まるで、捨てられた犬みたいな顔してこっち見てる。
なんでわたし、ローにあんな顔させてるの?
助けてって言えばローは助けてくれる。
でも、それじゃダメだ。
わたしはローを愛してるんだから、堂々としてなきゃダメだ。
「父上?エルフの長はいつから礼儀を忘れたのですか?」
わたしは父上の手を払うと立ち止まった。
「何を言う?」
父上が眉を寄せてわたしを見下ろす。わたしは髪を払うとにっこり微笑ってみせた。
「見てください」
わたしは両手を父上に見せた。
「まだ痣はありますけれど、すぐに回復します。魔法も使えますし、楽器も弾けます。オオカミ族のローがわたしを助けてくれました。
なのに父上は、彼の者の労いもせずに立ち去ろうとしているではありませんか。わたしは父上の息子として、またエルフ族の一人として、父上が礼儀を知らず、また薄情であること、恥ずかしく思います」
父上の眉が寄る。 険悪そのものの顔でローを指差す。
「そもそもの傷も、その者のせいではないか!」
うっざいなあ、間者から情報は把握済みなんだね。学園都市のセキュリティ大丈夫なのかな。後で調べて置かないと、ローとのあれこれがダダ漏れとかになりそうだよね。
わたしはうるうると涙を浮かべて父上を見た。嘘泣きなら任せてよね。
「目の前で人が死のうとしているのに、それを見捨てろとおっしゃるのですか?メリーがそんな薄情なエルフだと?
そもそもわたしが自分の度量を誤り、魔力を枯渇させ、身に余る事態に安易に手を出した結果です。責められるべきなのはわたしです」
涙を浮かべるわたしを父上が苦々しげに見つめる。震える目蓋の間からぽろぽろと涙がこぼれると、耐えきれないと言うように目を逸らす。
父上はローを睨みつけると荒々しく言った。
「狼よ。大儀であった。我が白薔薇を痛みから救い、助けた事を感謝する」
楽勝だね。
心の中でガッツポーズを決めた。
「ありがとうございます」
ローが片膝をついて右手を前で組むと頭を下げた。
「参ろう。白薔薇よ」
父上の手を逃れて走る。ローの前に立つと、両手を差し出した。
戸惑いがちに出されたローの手を握って、手のひらを上にすると、その手にそっとキスをして立ち上がらせる。
後ろで兄上達が「なんだと」「まさか!」「嘘だ」とどよめく。
手のひらにキスするのはエルフの男が愛する人にすることだからね。わたしは父や兄の前でローに求愛したということだ。
わたしはローに微笑みかける。溶けた銀色の目が悲しげにわたし目をのぞき込んだ。じっと見つめると、ゆらりとその目に希望がよぎる。
そうだよ、ロー。
わたしを信じて。
わたしはローの手をにぎると、指と指を絡ませて父上に向き直った。
「──紹介します。父上、そして兄上。
わたしの愛する人、ロー・クロ・モリオウです。わたしはローに死の呪いがかかった時に、真実の愛と王子のキスでそれを打ち払って自らの愛を証明しました。わたしはローを伴侶にと望み、ローはわたしの傍らにあると約束してくれました。
祝福をいただけますか?父上」
わたしは左手を胸につけると頭を下げた。ローが続いて右手を胸つけて頭を下げる。二人の指は絡まったままだ。きゅっとローの手を握ると、ローの指先にも力が入る。
「お前はまだ子供ではないか!」
わたしは頭を下げたままローを見て微笑んだ。ローが少しうるんだ目で嬉しそうに微笑む。わたしは昂然と頭を上げて、晴れ晴れとした笑みを浮かべた。
「わたしはもう十八です。自分の事は自分で決められます。
わたしはローの命を救い、ローはわたしの命を救いました。昔から救った命は自分のものといいますよね?わたし達はお互いのものです。
父上も先ほどローに礼を言われたではありませんか。
父上の認められた通り、命をローに救われたわたしはローのものです」
謀られた事に気付いた父上の顔が赤くなる。
「許さ……」
「これは美しい」
大きな拍手が聞こえて、小さな身体が軽やかに部屋に滑り込んだ。
肩にかかる炎のような巻き毛、勝気な笑顔に輝くエメラルドグリーンの瞳。豪華な衣装は黒と赤。放たれるエネルギーに部屋の温度が上がる。
「ルーカス陛下」
最初に言ったのはパトリックだった。目の隅でパトリックが片膝をついて頭を下げるのが見える。
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