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手がかりを探しに〈2〉
しおりを挟む街の図書館といっても、地方にあるそれは王都の図書館に比べるとかなり小さな施設だった。
けれどその地方でしか読めない歴史書や伝えられている異聞事などを記した書物もある。
ルファは椅子に座り、閲覧に使う机の上に持参したノートを広げた。
頭を空にして思いつく事柄から書き連ねていく。
まだ調べてない事。
頭に浮かぶのは、やはり星の泉。
風の獣が現れたときに一瞬だけ視えたあの星図。
橙色をした彩星が一つ。
大きさも輝きも配置も、初めて視るものだった。
そしてもう一つの星───忌星。
紫のほうき星。これも初めて視た。
ほうき星は戦や飢饉、凶作を招くといわれ、不吉な星として嫌われているものだ。
忌星は数十年や数百年周期で現れたり、他の星々との羅列によって周期が異なっていたりと、星見師たちにも予測は難しい星なのだとルファは聞いていた。
ラアナが言っていた二つ足りない『標の星』も気になる。
橙色の彩星と紫のほうき星、この二つは違うだろうか。
標の星の特徴など聞いておけばよかった。
(星や星図のことは、イシュノワさんのところで調べた方がよさそうかも)
星見師の駐在邸に置いてある資料は豊富だ。
まだ目を通してない書物もあったはず。
───ふと、こちらを見つめるアルザークと目が合った。
「何か手伝うことは?」
アルザークの申し出に、ルファはとても驚いた。
(アルザークさんが手伝うなんて。そんなこと言われたのルキオンに来て初めて!)
「ぇっと。それじゃあ、ルキオンの風土記などが載った本とかを読みたいのでお願いします」
軽く頷いて、アルザークはルファから離れていった。
(私は神話の本でも調べよう)
風の獣に関する本を探しにルファも席を立った。
♢♢♢
「ないなあ」
図書館に置いてある神話書や風の獣に関する絵物語などは、どれもみな王都でルファが読んだものばかりだった。
そして星の泉に関することはどの本にも書かれていない。
今朝、洗い場で出会った御婦人が言っていた風鷲に関するものもない。
南地方の伝説を東方のルキオンで調べることは難しいかもしれない。
ルファはラアナと交わした言葉を思い返した。
『いつもは我等が結界を張る』と言った。星の泉に。
彷徨いの森で迷う者がいても泉に近寄ることがないようにと言っていた。
星の泉は人に知られてはならない場所だとも。
(ラアナに会いたいな)
また逢えると言われたけど。それはいつどこでなのだろう。
おもわずため息が漏れたときだった。
───トン。
目の前にアルザークが本を置いたので慌てた。
「四冊だ」
「あっ、ありがとうございます!」
「何を調べるんだ?」
「彷徨いの森と星の泉と風の獣についての記述で、王都の資料には載ってない内容があったらと思って」
「こっちは読んだのか?」
ルファが探してきた神話の本を指してアルザークが尋ねた。
「はい。どれも昔読んだことのあるものばかりで。星の泉の記述も載ってません。そういえば、アルザークさんはラウルとはどこで会ったんですか?」
「おまえを探していたら道で突然声をかけられて、居場所を知ってると言うから案内させた」
「ラウルは彷徨いの森について何か言ってませんでしたか?」
「何かとは?」
「ラアナは森が歪んでるって言ったんです」
「ああ、そういえばあいつも言ってたな。確か彷徨いの森は天と地の境い目とか」
「あ! 私もそれ聞きました。それから星の泉は風の獣の餌場だって」
「餌場?」
ルファは、風の獣の好物が月星の光なのだと説明した。
「それでおまえが食べられそうになってたのか」
「そ、そんなこと言われてもっ。私、風の獣が人を食べちゃうなんてそんなこととても思えなくて。……でもやっぱり、食べられそうになっていたんでしょうか」
確実に襲われる手前だったくせに、未だにこんな無自覚な発言をしている目の前の娘にアルザークは呆れて苛立った。
「おまえは警戒心が無さ過ぎる!」
ココアと同じことをまた言われて、ルファはヘコんだ。
「で、どうするんだこの本は。薄い本だが四冊を一人で午前中に読み終わりそうもないだろ。二冊貸せ、俺も目を通す」
ルファが返事をする間も与えず、アルザークは椅子に腰掛けると持ってきた本を読み始めた。
「……ありがとう、アルザークさん」
その仏頂面からは何も聞こえてこなかったが。
それもまた彼なりの返事のような気がして、ルファは微笑んだ。
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