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第六話〈好きな色①〉
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「今夜もお仕事ですか?」
食事を終え、後片付けをしながら私はアクバルトさんに尋ねた。
「ああ、今夜のうちに一つ仕上げておきたくてな。先に寝てていいぞ」
「……はい、おやすみなさい」
「おやすみ」
母屋から仕事場へ向かうアクバルトさんを私は見送った。
最近の旦那様はとても忙しそうだ。
東の街から装飾品の注文がいくつか入っていて、納期も近いらしい。
昨夜も遅くまで作業をしていたように思う。
あまり寝てないんじゃないかな。
夕飯に葡萄酒なんて出しちゃったけど、眠くなったりしないかな。
手元が狂って失敗とか……。
大丈夫かな。
などと考えながらも、一方では、
────大丈夫。
アクバルトさんはしっかりしてる大人だもん。
夜遅くまでの作業はこれが初めてでもないんだから。
そう思ったりもする。
私がいろいろ心配しても、手伝えるわけでもないし。
アクバルトさんの仕事が終わるまで、起きて待っていようかと思ったこともあったが。
寝支度を済ませると、あくびばかりで私の瞼はいつもすぐに重くなる。
そして布団に入ると、あっという間に眠気が襲う。
目を閉じてしまうと身体は鳥の羽が付いたみたいに軽くなって、あっという間に眠りの中だ。
微睡みながらホッと息をつく。
この瞬間がとても好きだったりする。
ゆっくりと今日一日を振り返りながら。
反省しながら。
疲れや緊張感というものがこの瞬間にようやく溶けて、身体が楽になっていくのだ。
そして思う。
やっぱりまだ私、慣れてないのかな。
ここでの生活に。
アクバルトさんにも……。
まだたくさん緊張するし。
でも。
アクバルトさんは優しい。
旦那様が優しい人でよかったと心から思う。
そういえば、お義姉さんからもたくさん布をもらった。
何かお礼がしたいな。
まだ慣れないけど、緊張するけど。
皆親切で優しくて。
私はここでの生活が、少しずつ好きになっている。
今日はアクバルトさんの好きな食べ物の味が発見できて良かった。
まだすぐには作れないけれど。
美味しいものをたくさん作れるようになりたいな。
あとは……
今日、兄嫁さまに見せてもらった糸の束、綺麗だったなぁ。
色がとてもたくさんあって。
私の好きな翠色もあった。
薄い朱色も綺麗だった。
織る作業も好きだけど、たくさんの色糸を使う刺繍も好きになってきた。
三日後にはまた兄嫁さまの家へ刺繍を習いに行く予定だ。
アクバルトさんは何色が好きだろう。
ふと思った。
聞いてみたいな、とも思った。
また明日。でもやっぱり……。
今日がいいな。
なぜかそう思った。
もっと話がしたかった。
それに。
旦那様より早く寝てしまうことはよくないように思う。
実家の養母も養父より早く寝てしまうなんてことはなかった。
先に寝なさいと言うアクバルトさんの気遣いに、ついつい私も眠くて甘えてしまっていたけれど。
こんなことじゃ、ダメだよね……?
一応、奥さんなんだから。
でも起きていたら、怒られるかな。
でもその前にアクバルトさんが戻るまで、私が起きていられるのかが問題かも。
しばらく悶々としていたのだが、少し眠気も覚めてきて私は横たえた身体を起こした。
身体を起こしていれば眠くならないはず。
アクバルトさんの……好きな色はなんですか?
……なんだろう。
青? 赤? 黄色?
それとも……?
考え始めると、なんだかドキドキ、わくわくする。
弾むような気持ちになりながら、私はアクバルトさんを待つことにした。
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