【完結】俺は遠慮します。

貰えません！

「遅かったじゃねぇかぁ。」

そこには気だるげな雰囲気で佇む男が1人。

「すいません。片付けで忙しくて。主役が出てからの方が忙しいんですよ。」

「フッ、そんな怒るなよ。」

「別に？怒ってませんけど。誰かさんにいきなり取り付けられた用事のせいで急いできただけですから。」

「すまんすまん。どうしても今日ここで言いたかったんだ。」

いつもゆるっとした、先輩の顔じゃなかったらだらしなく見える表情の先輩が急に真剣な顔をしだすから何事かと思う。

「な、なんですか？急に改まって…」

「こういう時ぐらい、改まるもんだろ。」

どういうときなんだよ。ってツッコみたかったけど俺は空気を呼んで、心の中に留めておいた。俺って空気読める男だから。
響先輩は自分のボロボロの制服から第二ボタンのところに置いていた手をボタンごと引きちぎる。

他は色んな人に取られたんだろう。このまま帰るのか可哀想。あぁ寮だから帰るも何もすぐそこか。

「これ、やる。」

「んぇ？」

変な声出た。いきなりすぎて超絶空気読める俺でさえこのシリアスっぽい場面で変な声を出してしまった、不覚…

「第二ボタン、意味があるんだろう？俺はお前に持っておいて欲しい。」

これは俺でも分かるが、随分遠回しな告白だ。これは受け取ったら付き合う的な…？

「あぁ、くそっ！俺はお前のことが好きなんだよ。だから、お前に持っておいて欲しい。これから、俺は大学に行くから会えなくなるだろう。それでも俺のことを忘れないように…」

ヤケクソのように捲し立てた先輩の話した内容はヤンデレ気質な気が…いやぁ～気のせいだな、うん。

「響先輩、俺…先輩とは付き合えないですけどそれでも俺に持っておいて欲しいですか？」

「………」

はっきりと伝えると、こちらをジッと見てくる先輩。まさか振られることを考えてなかったんじゃ…

「…それでもお前に持っておいて欲しい。心変わりするかもしれねぇじゃねぇか。」

重たい口を開いたと思ったら、ニヤリとニヒルに笑いながらそう言う先輩。いや、だからそういう自信はどこから来てるんですかね！？

そう言われて、貰いそうになるがふと我に返る。これ貰っても置き場所に困るだけじゃ…捨てれないし…

「あの…やっぱりもらえません。じゃあ俺はこれで。話ってこれだけですよね。失礼します！」

きっかり断って、返事を聞くことなくその場から去る。



「え、あっおいっ！」




俺は何も聞こえません！