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とある日⑵
しおりを挟む「あの、旬祢さんはお家を継がないんですか?」
穏やかに流れる時間のせいか、聞くつもりがなかったけど気になっていたことが口から出ていた。悠希先輩から聞く限り旬祢さんは十分に跡継ぎの力量があるんだろう。でも、今こうしてこの学園で養護教諭をしているということは…
「継がないな。俺よりあいつの方が合っているだろう。」
そう言った旬祢さんは、今まで見た中で一番嬉しそうな、楽しそうな、そんな穏やかな顔で笑っていた。
悠希先輩も旬祢さんも、お互いがお互いを認め合って尊敬…してるんだろうなぁ。いい関係だなと、素直に思う。俺は一人っ子だし、人間関係や人付き合いも得意な方ではないから、そういう多くを語らなくても信じあえる関係って憧れるなぁ。
「なぁ、栄人。」
ふと、悠希先輩と旬祢さんの関係について考えていると名前を呼ばれて、目を合わす。もちろん旬祢さんと…
ジッと見つめられて、心なしか顔が赤くなるのを感じる。いや、ダメだろ…その顔は反則。誰だって緊張するし、なんか照れる。
「そんな可愛い顔するなよ。食べたくなる。」
旬祢さんがそう言いながら近付いてくる。キスされると思って、身構えると……
「ひぁっ!」
ほっぺを噛まれた。え、なんでほっぺ?てっきり俺…キスされると思ってちょっと期待……しちゃった、んだけど…
「フッ、そんな物欲しそうな顔をするな。これだけじゃあ済まなくなる。」
そう言って少しギラついた目をした旬祢さんを見て、背中にゾクリと何かが走る。
「でも、残念。時間切れだ。」
「栄人!無事か!?」
旬祢さんが言い終わるか終わらないかのタイミングで保健室に入って来たのは……
「徹から聞いた時は心配したんだぞ。何もされてないか?」
「そうですよ。この人に何かされたらなんでも言ってくださいね。」
尊と悠希先輩、そして俺のそばで無言で見つめてくる徹だ。
あまり見たことのない珍しい組み合わせに驚く。
「なんだ、俺を犯罪者扱いか?心配しなくても何もしてねぇよ。ほら見ろ、お茶してただけだ。」
どうやら俺のほっぺを噛んだことは秘密らしい。こちらに送られてくる視線すら美しい。
ともあれ、秘密の多そうな人と秘密を作ってしまった俺だった。
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