【完結】腐女子の私が美少年⁉

え、嫌なんですけど…⑶

「じゃ、じゃあ僕は失礼しますね。」

気まづくなってこの場を後にしようとすると、ガシッと腕を掴まれる。

「待て…さっきはいきなりすまなかった。これからも話に来てもいいか？」

先ほど前での有無も言わさぬ態度はどこへやら、こちらを伺う様子に断われない雰囲気を感じる。

「え、えぇまぁ…」

「そうか、これからよろしく！」

クシャッと人懐っこそうな笑顔にドキッとしたのは厳ついながらも顔が良かったせいだと思いたい。
シルバーの髪をオールバックにし、グレーがかった瞳は鋭い目つきをしていたのだが…笑うと、目尻が垂れてなんともまぁ柔らかい雰囲気になっている。

出会いは最悪だったけど、見知らぬ先輩とお友達になってしまったみたい。
そのまま先輩と別れて教室へ戻ると、ジルがすごい勢いでこちらへ迫ってくる。

「ナオ！心配したんだ。大丈夫かい？何もされなかった？」

立派な男の私が何をされると言うんだ、まったく。ジルは心配し過ぎだと思う。

「大丈夫！なんかお友達になったし。アルノルフ＝トルシエ？先輩と。」

さすが元日本人の私。カタカナは覚えにくいし、言いにくい。

「アルノルフってあの！？」

隣まで来ていたバルが先輩の名前を聞いて声を上げる。
え、やっぱり有名人だったのか…あの先輩。恥ずかしい人とか言ってごめんなさい。
心の中でソッと謝っておく。

「あのってどの？」

「アルノルフ＝トルシエ、3年の学年主席ですよ。トルシエ侯爵家の一人息子で頭脳明晰、おまけに剣術も相当なものだとか…見た目も相まって社交界ではかなりの人気者ですよ。年齢的にも婚約者を決める年頃とのことで申し込みが殺到しているにもかかわらず浮いた話が出ないから皆様子を伺っているらしいです。」

まって、バルさんや、なんでそんなに詳しいの！？すごいを通り越して怖いんだけど…

「…な、なんですかその引いたような視線は。」

「い、いやぁ詳しいんだなぁって思って…」

私の遠慮がちな言葉に気づいたのか慌てて訂正をするバル。

「ち、違いますよ！興味があるからとかではなく、嫌でも耳に入って来るんですよ。これでも私は次期宰相として扱かれていますから。」

ほうほう、なるほど。まぁそういうことにしといてあげよう。でもそれほど有名ってことは知らなかった私の方が恥ずかしい奴なんじゃ…

そこまで考えて、一旦思考を停止して考えなかったことにする。どうせもう友達になったんだし、過ぎ去ったことを考えても仕方ない。

「ナオに何もないなら良かったよ。今度からは俺もついて行くからね。」

いえ、結構です…とは護衛する立場からは言えないわけで…しぶしぶ承諾する。

「ナオ、俺はナオが心配なんだ。あぁ、俺のナオ。」

いえ、私のナオです。または、クレマさんのナオです。