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18.魔物との交渉
しおりを挟むフェイは、クレナール男爵に連れられて、魔物たちが出没していると言う場所へと向かった。
男爵領は、辺境の地から1時間ほど行ったところにあった。
男爵領で唯一の街へ向かうと、そこは立派な城壁に囲まれていた。
王国外縁部にあると言うことで、さほど栄えているというわけではないが、それなりに人口はあるようだった。
「街の反対側にある山に、扉があります」
フェイたちは街を通り抜けて、問題の山へと向かった。
魔物が出ると言うことで、随行する騎士たちの表情も硬い。
そして案の定、一行が山道に入っていくと、すぐにモンスターと遭遇した。
現れたのは、コボルドの群だった。
すぐさま剣を引き抜く騎士たち。
だが、
「“セイク・リドート”!」
フェイが結界魔法を唱えると、コボルドたちは身動き一つ取れなくなる。
「これだけのコボルドを一瞬で……!! さすが、噂通りのお力だ…… これならすぐに魔物たちを一掃できますね」
クレナール男爵がフェイの力に感嘆する。
だが、男爵の言葉はフェイの意図するところと違っていた。
「魔物を一掃する必要はないかもしれません」
フェイがそう言うと、男爵は驚く。
「なんですと?」
――と、フェイは結界に縛られたコボルドたちに近づいていく。
「フェイ様、一体何を……」
コボルドの目と鼻の先まで行き、そしてフェイは――口を開いた。
「あなたたちは、この土地に何を求めますか?」
――物申すことはできないはずの魔物に、フェイはそう語りかける。
しかし、
「何を求めるだと!?」
コボルドの一匹が、確かにそう答えた。
「こ、コボルドが喋った!?」
騎士たちが驚きの声を上げる。
「魔物だってコミュニケーションは取ります。それを理解できない人が多いだけです」
フェイは騎士たちに向かって説明する。
フェイの言語術の範囲は、魔界語にまで及んでいた。
特に、群れで生活するコボルドの言語は、フェイにとっては比較的理解しやすいものだった。
そして、フェイが理解できる言葉は、“自動翻訳”のスキルのおかげで周囲の人間も理解できるようになる。
だから、コボルドとの会話が可能になっているのだ。
「我々は、貴様たち人間に襲われている! 自分たちの身を守ること以外に求めることなどない」
コボルドはそう吠えるように言い放った。
「……それならば、話は早いです」
フェイはなだめるように語りかける。
「僕たちはも同じです。魔物たちの領土を脅かしたいわけではありません。僕たちも自分の領土を守りたいだけなのです。だからみなさんが魔界へと撤退してくれるならば、僕が“扉”を閉めます。そうすればお互いに戦う必要はありません」
フェイの言葉に、耳を傾けるコボルド。
と、次の瞬間フェイはコボルドたちを縛っていた結界魔法を解いた。
自由の身になっても、コボルドたちはフェイに襲いかかってくることはなかった。
それが当たり前と言う風にフェイは話を続ける。
「もしかしてですが、魔法石の採掘があなた方に何か悪影響を及ぼしているのでは?」
フェイが言うと、コボルドは頷いた。
「そうだ。この山の魔法石が奪われ、我々の力も衰えている」
すると、フェイは男爵に聞く。
「この山での魔法石の採掘をやめることはできますか?」
「ああ、それで魔物たちがいなくなるというのであれば。もともと決して効率のいい山ではなかったのです。他から取ることにしましょう」
その言葉を聞いたフェイは、再びコボルドたちに向き直る。
「人間は魔物と戦う気はありません。どうか、そう主人にお伝えいただけないでしょうか」
フェイが言うと、少ししてコボルドが言う。
「――どのみちお前には勝てそうにない。きっとお前が本気になったら、我々など跡形もなく消え去るしかないのだろう」
コボルドの言葉は粛々としていただけれども、フェイに対する畏怖と敬意の念が十分に伝わってくるものだった。
「できれば、そんな展開は避けたいですね」
フェイは、頷きつつ、しかしコボルドの言葉をありえないことだとは否定はしなかった。
すなわち――フェイには彼らを滅ぼすだけの力があるのだ。
そしてコボルドはフェイの提案に対して回答する。
「魔将には伝えておこう。お前たちは我々を脅かすつもりはないのだと」
「ありがとうございます」
――そのままコボルドたちはそのまま山の方へ――自分たちがくぐってきた扉の方へと引き上げていく。
「す、すごい! 言葉だけで、魔物たちを撤退させてしまった」
騎士たちはただただ感嘆する。
「魔界への扉を閉じる仕事は何度かやってきましたから。魔界から来た魔物は、こちらの世界に住み着いて野生化した魔物とは違って、言葉さえわかれば話し合いができる相手だと知っていただけですよ」
フェイは粛々と言うが、男爵もますます感心した様子だった。
「……ありがとうございます、フェイ様! あなたのおかげで街は救われました」
†
――魔界、クレナール男爵領へ繋がるの門付近。
魔界へ引き上げて来たコボルドが、魔将へと報告をあげる。
「魔界語を喋れる人間!? しかも圧倒的な精霊術を使うだと!?」
コボルドの話を聞いた魔将は驚きを隠せなかった。
その条件に当てはまる人物を、魔将は知っていたからだ。
「もしや――名前はフェイ・ソシュールか」
「確かにフェイと名乗っておりました。魔将はご存知なんですか?」
「当たり前だ……! 魔将の中では知らぬ者ものはいない。前に、ドラゴニア王国の都を攻めた時に、奴はたった一人で我々の軍を壊滅に追い込んだのだ」
その言葉を聞いて、コボルドはありえない話ではないと思った。
それほどにフェイの力は強力だったのだ。
「彼らは我々を襲う気はないのだと、そう申しておりました。山での魔法石の採掘も止めると。我々もこんな小さな領土に興味はありません。撤退すべきかと思います」
「ああ、そうしよう。と言うよりそうするしかあるまい。あのフェイが相手では……」
魔将は即決で撤退を決めたのだった。
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