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15.千人くらいなら楽勝です。

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「ご主人様、見てください! こんなに野菜が取れたんですよ!」

 イリスが籠いっぱいの野菜をみせてくれる。食べ物も徐々に収穫できるようになり、村の生活は日に日に豊かになっていた。

 そして大商人クラドとの取引も通じて貨幣を手に入れ、それで木材なども購入できるようになった。おかげで、村の建物も少しずつ豪華になっている。

「まさか、まともな家に住めるなんて思いもしなかったです」

「これも全部ご主人様のおかげです!」

 村人たちは口々にフェイに感謝の言葉を述べた。

「いえいえ、僕もだんだん村が良くなっていくのは見ていて楽しいです」

 フェイは、王宮にいた時には感じられなかった充実感を得ていた。
 やはり、自分の仕事で幸せになる人々の顔が見られるというのはお金には代え難いものがあった。
 

 ――だが、そんな村に突然の襲来者があった。

 真っ先に気が付いたのはフェイだった。
 見張りのゴーレムが反応したのを感じたのだ。

「何かがくるな……。数が多い……トロールが通りかかった、なんて話じゃないッ!」

 フェイは作業を中断して、意識を見張りの方に集中させる。

 と、次の瞬間、フェイの元に村長が駆け寄って来た。

「大変です、ご主人様!」

「何かが近づいてきていますね」

「はい、ご主人様。街の方から、辺境伯軍がやって来ます」

「……辺境伯軍!?」

 村人たちに動揺が走る。

「かなり数がいるようですが……」

 フェイはゴーレムからの信号を元に大体の数を把握していたが、実際の目で見たわけではないので確かめるようにそう言った。

「はい、ご主人様。ざっと千人はおります」

「せ、千人?」

 村人たちが悲鳴をあげた。

 未開の地には、自分たちの村以外に攻略の対象はない。
 辺境伯軍は明らかに村を侵略しにきているのだと誰でも理解できた。

 ――フェイは内心で呟く。

 テビアの実で注目を浴びたのがまずかったか。

 どうやら高級品が取れる場所があるらしい。
 そしてそこは未開の地で、誰の領地でもない。
 辺境伯は「早い者勝ち」だと思ったのだろう。

「おしまいだ! 千人相手に勝てるわけがねえ!」

「逃げるっきゃねぇ!」

「でもどこに逃げるんだよ!?」

 村人たちは一気に大混乱に陥る。

 ――だが、そんな彼らに力強く言う。

「みなさん、落ち着いてください」

 千人の相手と聞いて村人たちは恐怖のどん底に突き落とされていた。
 だがフェイだけは違った。

「僕がなんとかしてみせます」

 フェイのことを崇めている村人たちも、流石にその言葉だけで安心することなどできなかった。
 だが、フェイには村人たちを安心させるために説明する時間は残されていなかった。
 粛々と迎撃の体制を整える。

「万が一兵士たちが流れてきたときのために。村長、ゴーレムたちを率いて村の入り口を守ってください」

 フェイが言うと、村長が声をあげる。

「それではフェイ様はお一人で千人の軍隊と戦うおつもりですか!?」

「いえ、イリスも手伝ってもらいます。安心してください、なんとかなります。僕を信じてください」

 フェイの言葉に、村長は一瞬考えてから頷いた。

「フェイ様を信じます」

 †


 フェイはイリスとともに、村の城壁の外へと向かった。

「イリス、巻き込んでごめんだけど、力を貸してくれ。危ない目には遭わせないから」

 フェイが言うとイリスは笑顔で頷く。

「もちろんです、ご主人様。私の命は、ご主人様のためにあります!」


 ――――1000人の軍隊が侵攻してくるその先で待ち受ける。

「おい、なんだ、あのガキたちは?」

 先頭で軍を率いる将校が、立ちはだかるフェイたちを見て言った。

「たった一人で、交渉人のつもりか?」

 将軍の隣の将校がそう笑った。

「馬鹿な奴らですね。このまま踏み潰してやりましょう」

「ああ、そうだな」

 辺境伯軍は歩みを止めることなく、そのまま前進して来る。

 ――――だが、次の瞬間、


「“セイク・リドート”!」
 
 フェイが両手を突き出してそう唱えると、前方に数百メートルの幅がある透明な幕ができた。
 そして幕はそのまま辺境伯軍へ向かっていき、その周囲を包み込んでいく。

「な、なんだ!?」

 膜に包まれた辺境伯軍の兵士たちは、突然体が浮遊して、自由を奪われ身動きが取れなくなった。 

「ど、どうなってるんだ!?」

「た、助けてくれ!」

 そして次の瞬間、フェイは変身したイリスに飛び乗って、辺境伯軍の兵士たちへと向かっていく。

 ――兵士たちを見下ろすと、一般兵は獣人で、将校だけが人間という構成だった。

 そのまま一般兵の上を飛び、最後尾にいた将軍の元へと向かう。


「く、くるなぁ!」

 人間の将軍は、自分の元に飛んでくるフェイを見て、そう叫んだ。
 だが、フェイはそのまま将軍の元へと突っ込んでいき、その首根っこを掴んだ。

「ひぃぃ!!!!!!!」

 そのまま上昇し、将軍を上空へと連れていく。
 そして全兵士に見えるところまで飛び上がり宣言した。

「この通り、将軍の命は僕が預かりました! もうあなたたちに勝ち目はありません!」

 フェイはそう宣言し、後方にいる将校たちの拘束をといた。

「ば、ばけものだぁ!!!!!!!」

「いのちだけはお助けを!!!!!」

「ママァぁぁ!!!!!!!!!!」

 自由になった人間の将校たちは、脱兎のごとく荒野を逆戻りで逃げていた。
 先程までの威勢はどこへ行ったのか――

 将軍が人質となり、将校たちが逃げ去ったことで辺境伯軍が無力と化したことを理解した村人たちは、安堵するより先に、フェイの圧倒的な強さに感嘆した。
 
「さすがご主人様だ!!」

「たったお一人で、千人を圧倒するなんて、まるで神様だ……」

 フェイは頭をかきながら呟く。

「さすがに、ギリギリなんとかなりましたね……」

 実際のところ、フェイは持てる全ての力を使い切っていた。
 強大な精霊の力とて万能ではない。
 敵が2000人だったら、一人ではどうしようもなかった。

「村が目立ってきたので、狙われることも考えて守りを固めないとですね」

 フェイは村長に言う。

「はい、ご主人様。いざとなったら村人たちが戦えるように、訓練をします」

「お願いします」

 †
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