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12.高級品の販売

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 †

「ああ、ご主人様! よくぞご無事で!!」

 フェイが村に降り立つと、村長たちが迎え入れてくれる。
 村人たちは、突然王都から呼び出されたフェイのことをかなり心配をしていた。

「全然大丈夫ですよ。ちょっと“引き継ぎ”をしてきただけですから」

「そうなのですか。ご主人様が連れていかれたときはどうなるのか、本当にヒヤヒヤしましたが……」

「心配をかけてすみません」

 もうフェイの中では王都のことは済んだ話になっていた。

 もともと、自分がいなくなってもしばらくは回るように設計してあったし、その方法もちゃんと教えた。

 これで罪悪感はもうない。
 あとは女王がしっかりやってくれれば、問題はないはずだ。

 ……そのはずである。

 あとは女王様の采配次第だが、流石にちゃんと考えることだろう。

「ところでみなさん、ちょっと試したいことがあるんですが」

「試したいこと?」

「ええ。せっかくなので――商品作物を作りたいと思います」

 †

 フェイは、イリスと村人数名を連れて、山の方へと向かった。

 栽培に必要な“苗”を探しにいくためだ。

 目当てのものがあると自分の目で確かめたわけではなかったが、フェイにはほとんど確信に近いものがあった。

「ご主人様。この先は、我々も何度か見てきております。植物に詳しいものと参りましたが、特に食べられるものはありませんでした」

 村人がフェイにそう伝える。

「ええ、そうだと思います。でも、それは私が来る前ですよね?」

 フェイが言うと、村人は首をかしげる。

「ご主人様が来た後だと何かが変わるのですか?」

「すぐに気がつくと思いますよ」

 と、話しているうちに、フェイが望んでいたものが視界に入って来る。

 ――その景色に、村人たちも驚く。

「こ、これは!!」

 ちょうど坂を越えたところにある平地は、他よりも緑が多く生い茂っていた。

 そしてその中に、村人たちが見たことがない実(み)をつけた植物が自生していたのだ。

「こ、こんなに実が!? 前に来た時はなかったのに!」

 村人たちが驚く。

 だが、その言葉は間違っていた。

「なかったんじゃないです。見えなかったんですよ」

 フェイは実を手にとって村人たちに見せる。

「精霊植物です。普通は精霊たちにしか見えません。でも、今のみなさんは私の“通訳”スキルで、精霊語を理解できますから、見えるようになっているんです」


「な、なんと! 言葉を知っただけで、見える景色まで変わるとは!!」

 それが言葉の力だった。

「みなさん、たんぽぽって知ってますよね? 黄色い花を咲かせるあれです。たんぽぽはみなさんもよく目にすると思います。でも、他の雑草の名前は知らないですよね? みなさんも普段色々な種類の植物を見ているはずです。当然色も形も様々です。もちろん存在しています。でも、皆さんはその違いを意識したことはない。なぜなら、その植物の名前を知らないから。結局人間は、名前を知らないものは認識できないんですよ」

 今の村人たちは、精霊の言葉がわかる。だから精霊世界のものもちゃんと認識できるのだ。

「この植物は、テビアというものです。この実が高く売れるものになるんです」

 フェイが説明すると、イリスがその実を口にした。
 と、その瞬間イリスは目を見開く。

「あ、甘いッ!!!!」

 と、イリスの表情を見て、村人たちも実を口にする。
 そして同様に驚愕の表情を浮かべた。

「テビアは、サトウキビ以上に甘いんです。効率が良くないので、大量生産で用いられることはないんですが、雨の量に関係なく精霊の力が宿る土地であればちゃんと育ちます。この地で育てるのにピッタリですよ」

「やった、砂糖食べたい放題です!」

 イリスは両手を上げて喜びを示す。
 相当砂糖がお気に入りのようである。

「砂糖を作って、近くの街で売ればお金を手に入れられます。それで色々なもの買えば、村の生活ももう少し楽になると思います」

 フェイが言うと村人たちは顔を見合わせて笑みを浮かべる。

「お金があれば肉や酒も買えるな!」

「さすがご主人様だ」

「おいら、これを一生懸命育てます!」

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