上 下
6 / 20

6.未開の地の住人

しおりを挟む


 ドラゴニアの宮廷が大混乱に落ちいている頃、“ただの通訳”フェイは、出会った竜人のイリスと、美味しく焼き魚を食べていた。

「このお魚、すごく美味しいです!」

 イリスは尻尾をブンブンと振り回してそれを伝える。

「うん、意外といけるね。宮廷で食べるご飯より美味しいよ」

 フェイは、自分の力で食料を手に入れることができると確認できて、ひと安心していた。

「これで、野垂れ死ぬなんてことにはならなそうだ」

「さすがご主人様です」

 食事を終え、昼過ぎ。
 まだまだ日が落ちるまで時間があった。

「せっかくだし、あたりを探検しようと思う。どんなものがあるのか見て見たいし」

「ぜひご一緒させてください」

 †
 
 フェイとイリスは、二人で並んで山の方へと歩いて行った。

 ――山々の谷間に、何かあるかもしれない。

 そう思って岩場を進んでいく。

「このあたりって、誰か住んでるのかな」

 フェイが呟くと、イリスは「どうでしょうね」と首をかしげる。
 イリスはこう見えてまだ生まれたてなので、この辺りのこともほとんど知らないのだ。

 家を出てから一時間ほど歩いたが、人の影は見つからない。
 荒涼とした景色が続くばかりだった。

「うーん、これ以上行ってもあんまり何もないのかな」

 と、そう思いかけたとき、



「うわぁぁーーーーー!!!」


 突然響き渡る悲鳴。


「ご主人様! あっちです!」

 フェイより感覚が優れているイリスが、声のした場所をすぐに特定する。

 イリスが駆け出し、フェイはそれについていく。

 そして、坂を登っていった先に、声の主を発見する。
 だが、声をかける余裕はなかった。

 青年が、トロールに襲われていた。
 逃げてきたはいいが、崖の前で追い詰められたらしい。
 今にもトロールの棍棒で叩き潰されようとしていた。

「“ファイ・ランズ”!」

 フェイは精霊術で、トロールに向かって炎の槍を放つ。
 次の瞬間、トロールは勢いよく燃え上がり、そのまま倒れた。

 青年は腰を抜かして、燃えるトロールを見ていた。

「大丈夫?」

 フェイは青年に近づいていき、手を差し伸べる。

「あ、ありがとうございます」

 近づいていって気がついたが、青年は頭に耳を生やしていた。
 見ると、お尻には尻尾もついている。

 いわゆる、人狼である。

「あなた様は命の恩人です。まさかトロールを一撃で仕留めるなんて。王宮の騎士でも簡単なことではないと聞きます。……あなた様がいなければ、今頃死んでいました」

 フェイは、その言葉「いえいえ、大したことは」と謙遜する。

「ところで、この辺に住んでいるのですか?」

 フェイが尋ねると、青年が「はい」と頷く。

「川の方じゃなくて、こんな山の中に?」

 この不毛な大地で、唯一みのりがあるのは川の周辺だ。
 正直、川の周辺以外でまともに暮らせるとは思えなかった。

「川にはトロールが寄ってくるから、山奥で暮らしているんです」

「それではこの地にも人が住んでいるんですね?」

 フェイが聞くと、青年は頷く。

「と言っても、半人の人間たちばかりですが。国を追われてこの地にたどり着いた者たちばかりです」

 フェイにとっては、いわば「お隣さん」である。

「あのもしよかったら挨拶させてくれませんか?」

 フェイが言うと、青年はすぐに頷く。

「もちろんでございます。村は貧しくたいしてもてなすことはできませんが……」

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

幼馴染と一緒に勇者召喚されたのに【弱体術師】となってしまった俺は弱いと言う理由だけで幼馴染と引き裂かれ王国から迫害を受けたのでもう知りません

ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
【弱体術師】に選ばれし者、それは最弱の勇者。 それに選ばれてしまった高坂和希は王国から迫害を受けてしまう。 唯一彼の事を心配してくれた小鳥遊優樹も【回復術師】という微妙な勇者となってしまった。 なのに昔和希を虐めていた者達は【勇者】と【賢者】と言う職業につき最高の生活を送っている。 理不尽極まりないこの世界で俺は生き残る事を決める!!

ちびっ子ボディのチート令嬢は辺境で幸せを掴む

紫楼
ファンタジー
 酔っ払って寝て起きたらなんか手が小さい。びっくりしてベットから落ちて今の自分の情報と前の自分の記憶が一気に脳内を巡ってそのまま気絶した。  私は放置された16歳の少女リーシャに転生?してた。自分の状況を理解してすぐになぜか王様の命令で辺境にお嫁に行くことになったよ!    辺境はイケメンマッチョパラダイス!!だったので天国でした!  食べ物が美味しくない国だったので好き放題食べたい物作らせて貰える環境を与えられて幸せです。  もふもふ?に出会ったけどなんか違う!?  もふじゃない爺と契約!?とかなんだかなーな仲間もできるよ。  両親のこととかリーシャの真実が明るみに出たり、思わぬ方向に物事が進んだり?    いつかは立派な辺境伯夫人になりたいリーシャの日常のお話。    主人公が結婚するんでR指定は保険です。外見とかストーリー的に身長とか容姿について表現があるので不快になりそうでしたらそっと閉じてください。完全な性表現は書くの苦手なのでほぼ無いとは思いますが。  倫理観論理感の強い人には向かないと思われますので、そっ閉じしてください。    小さい見た目のお転婆さんとか書きたかっただけのお話。ふんわり設定なので軽ーく受け流してください。  描写とか適当シーンも多いので軽く読み流す物としてお楽しみください。  タイトルのついた分は少し台詞回しいじったり誤字脱字の訂正が済みました。  多少表現が変わった程度でストーリーに触る改稿はしてません。  カクヨム様にも載せてます。

視える宮廷女官 ―霊能力で後宮の事件を解決します!―

島崎 紗都子
キャラ文芸
父の手伝いで薬を売るかたわら 生まれ持った霊能力で占いをしながら日々の生活費を稼ぐ蓮花。ある日 突然襲ってきた賊に両親を殺され 自分も命を狙われそうになったところを 景安国の将軍 一颯に助けられ成り行きで後宮の女官に! 持ち前の明るさと霊能力で 後宮の事件を解決していくうちに 蓮花は母の秘密を知ることに――。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

処理中です...