5 / 20
5.女王の苛立ち【一方、ドラゴニア王国では】
しおりを挟む一方、その頃ドラゴニア王国では、突然ドラゴンと意思疎通が図れなくなり、近衛騎士も官僚たちも大慌てだった。
「今すぐになんとかさせなさい!」
女王はすぐに改善せよとの檄を飛ばしたが、それはどう考えても無理だった。
ドラゴンは馬とは違う。複雑で繊細な指示を出せなければ、空中戦では勝てないのだ。
また、日頃の体調管理なども、言葉が話せなければままならない。
しかし、現在のドラゴニアでは、ドラゴンに乗る騎士も飼育員も、皆、古代語が話せないのだ。
もちろん、これはドラゴニアの人間たちが不真面目だったという訳ではない。これまではフェイの“自動通訳”があったから、それでも問題がなかったのだ。
官僚たちにできることといえば、ドラゴンの話す古代語を理解できる者を数名探し出してきて、ドラゴンに乗る騎士たちに古代語の授業をさせるのが関の山だった。
「授業ですって? その教師たちは、明日までに騎士たちに古代語を覚えさせることができるので?」
女王が吠える。
「恐れながら陛下。一朝一夕で言語はマスターできませぬ……」
大臣がそう答える。
「今他国のドラゴン部隊が襲ってきたらどうするつもりですか!」
「も、申し訳ありません……」
「フェイが使っていた“自動通訳”とやらを使える人間は他にはいないのですか? あのような愚か者でもできたことなのですから、他にもできる者はいるでしょう!?」
――そんな人間、フェイ様以外にいるわけがない。
大臣たちはそう思ったが、それを口に出すことはできなかった。
哀れな大臣にできるのは口を閉じることくらいだった。
「……ええい、無能な奴らめ……」
女王は歯ぎしりする。
――だが、そこでさらに問題が起きた。
「ところで大臣たち。なんだか、暑くないですか? こんなに部屋が暑かったことは今までなかったのですが」
それは当然大臣たちも気が付いてた。
当然、女王に聞かれる前に解決しようと試みていた。
だができなかった。
「恐れながら、殿下。どうやら王宮の冷却術式が停止したようです」
「冷却術式? 壊れたのであれば、直させれば良いだろう。何をしている」
「それが、この術式はフェイ殿が機械語でプログラムしたものでして、どうすれば良いのか他の者ではわからないのです」
「なんですって!? 部屋を涼しくする程度のこともできないのですか!?」
大臣たちはまた閉口するしかない。
フェイの術式は、特別だった。見事な術式で、魔法石をほとんど消費せずに様々なことが効率よくできた。
しかしその代償として、フェイと同じくらい――すなわち世界で見ても並び立つものがいないほど――機械語に詳しくないと読み解けないのだ。
当然、術式を紐解いて直すなど不可能だった。
「ええい、いつの間に宮廷の人間は愚か者ばかりになってしまったんですか!?」
女王が苛立ち叫ぶ。
だが、その苛立ちを受け止められる者は、この国にはもはやいなかった。
3
お気に入りに追加
4,295
あなたにおすすめの小説
妹に出ていけと言われたので守護霊を全員引き連れて出ていきます
兎屋亀吉
恋愛
ヨナーク伯爵家の令嬢アリシアは幼い頃に顔に大怪我を負ってから、霊を視認し使役する能力を身に着けていた。顔の傷によって政略結婚の駒としては使えなくなってしまったアリシアは当然のように冷遇されたが、アリシアを守る守護霊の力によって生活はどんどん豊かになっていった。しかしそんなある日、アリシアの父アビゲイルが亡くなる。次に伯爵家当主となったのはアリシアの妹ミーシャのところに婿入りしていたケインという男。ミーシャとケインはアリシアのことを邪魔に思っており、アリシアは着の身着のままの状態で伯爵家から放り出されてしまう。そこからヨナーク伯爵家の没落が始まった。
種から始める生産チート~なんでも実る世界樹を手に入れたけど、ホントに何でも実ったんですが!?(旧題:世界樹の王)
十一屋 翠
ファンタジー
とある冒険で大怪我を負った冒険者セイルは、パーティ引退を強制されてしまう。
そんな彼に残されたのは、ダンジョンで見つけたたった一つの木の実だけ。
だがこれこそが、ありとあらゆるものを生み出す世界樹の種だったのだ。
世界樹から現れた幼き聖霊はセイルを自らの主と認めると、この世のあらゆるものを実らせ、彼に様々な恩恵を与えるのだった。
お腹が空けばお肉を実らせ、生活の為にと家具を生み、更に敵が襲ってきたら大量の仲間まで!?
これは世界樹に愛された男が、文字通り全てを手に入れる幸せな物語。
この作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
幼馴染みを寝取られた無能ですが、実は最強でした
一本橋
ファンタジー
「ごめん、他に好きな人が出来た」
婚約していた幼馴染みに突然、そう言い渡されてしまった。
その相手は日頃から少年を虐めている騎士爵の嫡男だった。
そんな時、従者と名乗る美少女が現れ、少年が公爵家の嫡男である事を明かされる。
そして、無能だと思われていた少年は、弱者を演じていただけであり、実は圧倒的な力を持っていた。
幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。
みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ!
そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。
「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」
そう言って俺は彼女達と別れた。
しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。
【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」
お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。
賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。
誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。
そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。
諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!
蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。
家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。
何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。
やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。
そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。
やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる!
俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる